田口ランディ – オクターヴ

届いた手紙を唯一の手がかりに、バリに友人を捜しに行く小説。そこでの1週間の滞在中にいくつもの神秘的な体験をし、自らを解放するというお話。

単 なる小説としてではなく、バリに興味があったり、バリの人たちがどういう風に考えてるのかとかを知りたい人が読んでもきっと面白いと思う。実際こういう風 にはっきり書いてる小説ってのはないんじゃないかな?あまりにも違う、現代(西洋文化)社会との価値観、システムの違い。

いまの世の中 ははっきりいって大半が西洋人というか白人たちが生み出したシステム=価値観で動いている。それは便利で快適だけれど、それらが導入されるまで存在したほ かの(日本も含む東洋的文化も)文化を淘汰し標準化、客観化してしまった。いいことなのか悪いことなのかはわからない。けれどもそういったものをもってい た人間たちの能力は失われたり、影をひそめてしまったりしてしまった。

小説では絶対音感をその象徴として扱っている。音楽教育を受けた 主人公が身につけている絶対音感(=暗喩としての西洋的社会システム)が、ガムランやバリの自然の神秘に触れることにより崩壊し解放されることにより自分 を取り戻す(=今の社会システムの中での自分の立ち位置を再認識する)。

確かにいまの社会ではその仕組みや価値観からはみだすものは排 除されたり、本人の居心地が非常にわるかったり、どこかに矛盾やひずみが潜んでいる。もしかするとそれは血として引き継ぐものからの抵抗なのかもしれな い。あまりにもあたりまえに受け入れてるいまの社会のありかたがいいのかどうか?なくしてしまったものはなにか?そんなことを考えさせられてしまう、そう 思える小説だと思う。

この本からたくさんのヒントをもらった気がする。

筑摩書房 2007

オクターヴ
オクターヴ – Amazon

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