Home > Archives > 2008-08

2008-08

乃南アサ – 幸福な朝食

これがこの人のデビュー作だとは・・・・強烈すぎ。何作か読んでるけれど、どれも人間の心理の微妙さ、エグさ、グロさ、そんなものを実に明白にインパクト 大で描いてるので、読んでいてしんどくなったりもするのだけれど、それ以上に物語がおもしろいし、先の読めない、でもちゃんと落ち着くそんなストーリーが 見事で、読んでいてまったく飽きない。

子供の頃は周囲とは一線を画して器量よしとして生まれた主人公はその美貌を一番役立てられる仕事 として芸能界を目指そうとするが、彼女にうりふたつな女性が先にデビューをしてしまう。そこから起こる二番煎じとしての悲劇。何をしてもぱっとせず、あの 人に似ている”だけ”の人になってしまい、そこで抱いた心の傷により違う人生を選んでいくのだが、悲劇の運命は彼女を手放したりはしなかった・・・

と ても才能があって、その才能と同等の才能があるひとがいて、片方が先に明るみにでたとき、もう片方がどうなってしまうのか。そんなこと考えた事なかったけ れど、それがこの物語のような姿形に関わること(つまり自分とは切っても切れない)であったばあい、後者はどんな心境になるのだろうか。また芸能人であっ たばあい、もし自分にそっくりな人が、とくに女性であれば、その女性としての幸せを満喫している自分とそっくりの人間がいるとしたら、どう思うのか。想像 するにもしきれない世界。

でもそんなことを身を切り刻むかのような描写をもって、主人公の苦悩とそれゆえの人生の変遷、そして自己崩壊してしむようすを隠す事なく描き上げているもんだから、ほんと読んでてしんどいのだけれど、でも面白い。この人、すごすぎると思う。

幸福な朝食

幸福な朝食 – Amazon

我孫子武丸 – メビウスの殺人

初めて読んだ我孫子氏。某先輩作家の話によくでてくる方なので、一度読んでみたかったのだが、ようやく手に取ってみた。なんとなくこの本を選んでみた。

ま だインターネットやらウェブなんて言葉なんてなかったころ、パソコン通信という言葉もまだ認知されてなかったころ、熱心なひとたちは黒い画面にうつされる 白い字だけの世界に次の可能性を見いだしていた。現実世界の時間や距離や民族や地位や名誉と関係ないまだ地平しかないような世界。そこではいまにつづくい ろんな物事の発端があったはず。この話を読んでてまずそれが懐かしかった。

当時としてはなかなかうまいネタなんじゃないかと思う。一般 の人は分かんない世界のことだっただろうし。実際いまでもこんなことは起こる可能性はあるけれど、当時はわかりにくく、うまい仕掛けだったと思う。交換殺 人、そんなことやるやつがいるのかどうか分からないけれど、ネットの世界の没頭していると現実とゲームの世界の区別がつきにくい、というか普通は明らかに 違う世界で別々なのだが、没頭しすぎると現実と連動したりつながったり、境目が希薄になったり。ネットの世界のルールや約束が現実世界に関係あるわけない のに、人を介するとそれが拘束力をもってしまったりする。もはやないと不便なツールだけれど、あまりにも巨大になりすぎて、いまや現実世界を食ってしまい そう。ネットは怖い。

メビウスの殺人

メビウスの殺人

石田衣良 – 反自殺クラブ(池袋ウエストゲートパーク5)

5冊目、今回もスピード感リアル感があって読みやすくて読み応えあって面白い。でもまぁちょっと話の度に新しいキャラがでてくる(そりゃ話のネタだから当然なのだが)ってパターン(とくに新登場かつえらく派手なやつ、みたいな)には、すこし飽きてきたかも。

4 編あるうち、若くてかわいくて人なつっこい風俗のスカウトマンの話「スカウトマンズ・ブルース」と日本やそのほか先進資本主義諸国のしょうもない大量消費 のために陰で労働力の提供ばかりさせられ、しかも劣悪な環境のために姉が死んでしまう「死に至る玩具」が好き。身近にこういう中国人がいないから、北京オ リンピックが終わった今もあまり中国に対するイメージがかわらない(昔のまま)。アメリカ人とかもそうだけれど、国とか全体にするとへんこりんでも、個人 個人はいいやつ、みたいなこともあるはずだし。

表題の「反自殺クラブ」。昨今は睡眠薬や練炭よりも、洗剤等の混合化学ガスによる自殺がおおいけれど、これらも発端はネット。2004年に書かれたみたいだけれど、石田さんてほんといろんな流行の先読んでるよな。すばらしい。

反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク〈5〉

反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク〈5〉 – Amazon

浅田次郎 – 憑神

幕末を舞台に、才能はあるのに不運が重なり出世できない主人公別所彦四郎がふとしたことからお参りした古びた祠が実は災いの神様であったことからはじまる どたばた劇。でもその中で描かれる江戸の町、幕末の雰囲気を通して、人間の生き方とはどういうものなのか、ということを考えさせられる。

主 人公はつぎつぎと取り憑く貧乏神・疫病神・死神に七転八倒する。貧乏神には家の財産を危うくされ、仕方なく、でも少し恨みを晴らす意味でそれを不運のもと となった婿入り先に向けてみたものの元妻やその子にまで不幸がふりかかったことを後悔し、疫病神に健康をそこなわれそうになったため、それを出来の悪い、 しかし家督を継いでその家督までだめにしてしまっている兄に振り向け、でも実は兄もわがままでダメなものなのにそれなりに自分の立場や時代のことを憂いて いることを知り、いままで軽蔑していた兄のことを考え直す。そして最後に死神に取り憑かれたときに、「いかに生き、いかに死ぬべきなのか」ということに心 底悩む。

そんな主人公の生きていく姿、そして幕末の雰囲気(徳川の次代の終焉)が、現代社会の我々の姿・時代と妙にオーバーラップす る、というか浅田次郎氏がそう描いたのだと思う。全体的な目標を失い、社会がどこを向いているのかわからず、その上に国外からの恐怖にさらされる。そんな 時代の中ではずるい人間がまかり通り、それに恨みを晴らすものが出て、諍いばかり起こり、正しくない(正義でない)力(権力)の使われ方がされ、政治は 腐ってしまっている。人々はなにかすがるものを求めたがるがそれがまったくない。

だから神頼みしたりなんかしたくなるのだけれど、実は 神頼みしたり、ちいさなことに一喜一憂したり、そんなことに振り回される事はつまらないこと。ほんとに幸せになるには、自分の信ずる道をみつけ、それを貫 いていく事なんだ、ということを主人公は悟る。そのことがそのまま著者のメッセージなんじゃないかな、と。そういう姿のひとはほんとに勇ましく見えるん じゃないか。

面白いながらも考えさせられて、そして晴れ晴れとする好作品だとおもう。だから映画はきっと見ない。

憑神

憑神 – Amazon

田口ランディ – 昨晩お会いしましょう

女性が主人公の4つの短編集。それぞれの女性はみんなすこしさびしさをもっている。男に振られたり、裏切られたり。でも彼女たちはその彼女の彼、愛人、浮気相手、そんな男たちを全身全霊で愛して、嫌って。それでも少し悲しい。

女 性と男性の人の愛し方はきっと根本的にちがうんじゃないかと思う。女性は染み込むようで、男性は包み込むようで。お互いの欲し方も違うに違いない。でも女 性は女性、男性は男性でお互いの事はほんとうは感覚的には理解できない。でもそんな分からないことを少し理解させてくれるのがこういう小説たちだ。没頭し て読んでいると心も体も女性に鳴ったような気がするときがある。綺麗に描かれなくとも、この短編たちのようにリアルにえぐく、でも節度ある物語たちは、分 からない世界の扉をすこし開いてくれる気がする。

あとがきがいい。

昨晩お会いしましょう

昨晩お会いしましょう – Amazon

Home > Archives > 2008-08

Search

Return to page top

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。