アキレスと亀

子どものころに絵の才能を評価され、そのことから芸術家をめざす男の半生を描く。最初はなんだか昭和回帰な映像作品なのかなとおもっていたら、途中からどんどん男の生き方、夫婦の話になめらかにシフトしていって、すごくおもしろく見られた。

結局彼に芸術家としての才能があったのかどうかなんてどうでもよくて、邁進する心と勇気、幼稚なまでの一心不乱さ、その割にぱっとしない作品たち、それらがおかしくて、やれ「芸術家さまだい!」とふんぞり返っている”芸術”という名の不可思議な敷居の高さを笑っているように見える。結局は筆を持って現された物理的なものではなく、その人の生き様、人となりそのものが芸術になっていくのだろうか。そしてそこにはやはり理解者というものが必要なのだろうか。とうていあれでは生きていけないもんな。

全身やけどをして、目だけ出てる状態の北野武の演技(というか、素か?)がとても沁みた。朽ちたコーラの缶に20万という値段をつける。冗談なのか本気なのか単に苦肉の策なのか、それは理由なく心がそう思うからそうなるだけで、芸術なんて乱暴に言ってしまえばそういうことなのよ、と、北野武はいいたかったのか、な?

映画の中にでてくる絵画は(たぶん)全部北野武のものだけれど、「しょーもなー」思うものから「おお!」思うものまでいろいろあって楽しい。

石田衣良- 美丘


相変わらず石田さんのこの手の話は美しく、美しいがゆえにうねる波のように猛々しく、激しく、圧倒的なスピードで過ぎ去っていってしまう。

章立てが短くて、すべて過去形で書き始められる文なので、あっという間に読んでしまう。というか読み出したらとまらない。そして物語りも転がり落ちていくようにスピードアップしていく。悲しい寂しい恋の物語。

そのひとがそのひとたるゆえんは何か?姿形?声?考え?
それが失われていくということは、どんな気持ちなのか?そのひとは?そのパートナーは?

めったにないことのはずなのに、すぐとなりでおきてしまいそうな、そんな気持ちがわらわらする、物語でした。

角川文庫 2009