奥田英朗 – 空中ブランコ


さる大病院の陰気な地下にある精神科。そこには中年で太っててへんてこな精神科医とミニの看護服にやたらと態度の悪い看護婦がいて、2人ともやたらと注射が好き・・・とか書くとめちゃくちゃ変な小説っぽいけれど、中身はなぜかのほほんとして、ちょっとおかしくおちゃめで、ホロリとしたり。2004年直木賞受賞作。

自分にはすごく自信があるはずなのに、何か不安だ、うまくいかない、自分は何も悪くないはずなのに・・・など、その道のプロフェッショナルでも普通のサラリーマンでもいつも何がしか悩みを抱いている。この本に出てくる5人の人たちもそういう人たちだ(短編5編からなる)。飛べなくなった空中ブランコの達人、先端恐怖症のヤクザ、教授であり義理の父のカツラが気になってしかたない大学の先生、まっすぐ投げられない野球選手、そして書けなくなった人気作家。

どの人もが何が原因か分からずにうまくいかないことに思い悩む。その前に現れる精神科医伊良部。このおかしな姿のおかしなキャラの人物に翻弄され、やがて心がほどけていく。彼にはなにか癒されるというか物事の真ん中を突いているようにも見えるところがある。でも彼の言動からはそれはよくわからない。変態なのか天然なのかはたまた天才なのか。そこが面白い。

これもっとシリーズで出て欲しいなー。

奥田さんの本たちはなにか救われる感じがして好感がもてるものばかりだ。

文集文庫 2008

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