よしもとばなな – 王国 (その1)アンドロメダ・ハイツ

よしもとさんの本もその紡ぐ物語も好きだし、どれも素敵だなーと思っている。その等身大ぽい感じも人間ぽさ、小さな感じとかも。エッセイとかもそんな感じだし。でもこの本を読み出すと、おやぜんぜん違うぞ?という感じで驚いた。ふわふわしている、見えているけれどよく見ようとすると見えない、確固たるものなのに自由に変化する、うまく言えないけれど、そんな世界観。今まで読んだ物語とは明らかに違う感じがする。そして、これは、間違いなく、好きなタイプ。

おばあさんと2人きりで人里離れた山奥で暮らしてきた雫石。おばあさんは自然の力を分けてもらってお茶をつくり、人々を助けてきた。雫石はそのお手伝い。しかし彼女は植物と通じ合う不思議な力を授かっていた。

一方どこかの街のはずれでウワサになっている少し目の不自由な、でもちょっといい男の占い師、楓。彼はものを通してそのひとの背景が見える。過去も今も未来も。そんな楓のもとにアシスタントとしていくことになる雫石。普通のひとには感じられない世界のなかで共感しあう2人。

そしてサボテンを通して知り合い、恋仲になる雫石と真一郎。人と植物をちゃんと区別するけれど、植物を愛してやまない彼。そして楓の恋人(彼はゲイだ)片岡さん。

不思議な人たち、でもいわゆる常識的な世界からはちょっとはみ出してしまっているひとたち。彼らは苦労するけれど、それでもちゃんと生きている。

街と自然。忘れてしまってるもの。闇。光。植物との対話。

ぜんぜんなにも具体的でなく、はじまりも終わりも曖昧だけれど、確実に自然に流れているものがあり、形はまったくはっきりしないけれど、確実に存在するものがあり、乱暴に扱うとすぐに壊れてしまう、でも力強くそこにある、なにか。そんなものに非常にあこがれる。この物語にでてくる、自分にはない、あってほしい、素敵な魅力と能力と生き方をするひとたちに惹かれてやまない。

まだ(その1)なので物語がどうなっていくのか、よしもとさんが何を描きたいのかわからないけれど、すでにこの物語の虜になってしまった。うまく伝えられるように感想かきたかったけれど、書こうとすればするほど、ぼやけてしまう。だから読んでほしい。

新潮文庫 2010

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