宮部みゆき – 震える岩

宮部さんの歴史もの。赤穂浪士がネタ。ふつうのひとには見えないものが見え、聴こえるという不思議な力をもつお初が、ふとしたことから関わった「死人憑き」(死んだ人がよみがえる)の事件を発端にそこから数々の謎を呼び寄せる。そしてその先には、赤穂浪士討ち入り事件の陰が・・・・

時代物でちゃんとその時代の空気感をかもし出しているのに古い感じがしないのは、宮部さんさすがという感じか。逆にいうと車とか電気とかそんなもの出てこないのに、現代劇風の感触で読めるので、時代物といってもへんなひっかかりがなくていい。

武士のあるべき姿として日本人が好み、褒め称える、忠臣蔵として描かれる赤穂浪士の討ち入り事件だけれど、あだ討ちのことだけクローズアップするとそうだけれど、あの平和な時代(1703年だそう。江戸幕府がひらかれてから100年後、5代将軍綱吉のころ)にあっては、武士が武士である意味、怖さというものが人々の心から忘れられていきつつあったご時世に、武士側からいえば武士の存在の意義を世に示した事柄、そうでない人間たちには武士の恐ろしさをおもいださせた出来事だったよう。

だから、もしかしたら、純粋に吉良家と浅野家の間でのあだ討ち、ということではなく、武士の世界がそういうことが起こるように仕向けた、また、その立場に立たされた、吉良も大石蔵之助および赤穂浪士たちも、世間に対してそうせざるを得なかったのではないか(そう追い込まれた)、という、すごくおもしろい方向からの見方をしていて、なるほどな、とおもった。悲しい話かもしれないけれど、当時は必要に迫られ起こったことだったのかもしれない。

講談社文庫 1997

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