奥田英朗 – 最悪


こんなタイトルだし、えらく分厚い(600ページ以上ある)のでどんな話なんだろうと読み出したけれど、これが面白くて、しかもタイトルどおり主人公たち(3人の群像劇である)が転がり落ちていくので、いや面白いというより「どうなるんやろ?」感が強く、一気に読んでしまった。いまひとつなにもやる気がおきずだらだらと退屈な日常をすごす青年、変化のない毎日が少し憂鬱な女子銀行員、そしてこつこつまじめに仕事に追われる町工場の社長。最初の青年はさておき、女性行員と町工場のおっちゃんは実際にそのへんにいそう。

それぞれがちょっとしたことから巻き込まれるトラブルや人間関係の隙間などから日常を少しずつ逸脱していく。そしてそれらがやがて結びつく・・・これだけ分厚い本だと散漫になりそうなのに、ぜんぜん退屈するところがない。また3人が介する(2人でもいいが)ときにそれぞれの視点から同じシーンを描くのだけれど、それがまたリアルな感じで、ひとつの物事を立体的に見せ、物語に奥行きが出来てゆく。ああ見事。

最悪といえば最悪だけれど、最低なことにはなってなくてよかったが、ほんとのほんとに最悪になるような感じでもよかったな、と思わなくはない。読んでるほうは気が滅入るだろうけれど。

とくに同じ自営業だからか町工場のおっちゃんの気持ちは痛いほどわかる。明日はわからない身だもんな。身につまされるな。

講談社文庫 2002

“奥田英朗 – 最悪” への1件の返信

  1. 転がり落ちていくなんて奥田さんの性格そのもの。

    奥田さんという作家さんは不思議ですね。
    この作品のように、長編で凋落しちゃう内容のモノ、さらりと読めるモノ、エッセイで毒ついてるもの・・・。
    本当にすごい作家さんですわ。
    新作「噂の女」を読んだのですが、こちらも面白かったですよ。

    超有名な作家さんだけに、いろいろなサイトで
    取り上げられていますが、かなり掘り下げてるサイトを
    見つけました。
    http://www.birthday-energy.co.jp/
    毒っぽい感じが上手く作風に現れていて、それが魅力
    でもあるとか。
    大御所になる感もあるそうで、これからも期待!

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