30年のおつきあい

ぼーっとしていて気づくのがおそくなってしまったけれど、今年2013年の4月で僕が初めてサックスという楽器を手にしてから30年経ちました。振り返ってみるとあっという間です。前のホームページのときには長々とプロフィールでも書きましたが、サックスを手にしたのは全くの偶然で、あの偶然がなかったら今の毎日はない、と思うと、人生の不思議を感じます。ほんとに、つくづく、次の自分を形作るチャンスやものもの、曲がらないと分からない曲がり角、というのがいつ何処にあるかは分からないものです。

サックスを知ったのは中学に入学した1年生のときにたまたま同じクラスになった3人の友達が「吹奏楽部に入りたい」といって、僕もついでに連れて行ってくれたからでした。あのうちの誰とも同じクラスにならなかったら吹奏楽部にはいってませんでした、きっと(そのとき吹奏楽部に行った1年生男子は僕も含むこの4人だけだったから)。しかもその3人がまた変わってて、一人はクラリネット、一人はトロンボーン、そしてもう一人に至ってはチューバをやりたいと言ったので、(楽器の在庫も全然ない小さな吹奏楽部だったので)ぼくに残された楽器は見たことないS字型の金色の楽器、つまりテナーサックスだったわけです。小学校には鼓笛隊もなかったので、生の楽器をみる/触れるのははじめてでした。

偶然の出会いはサックスだけじゃないです。ジャズを知ったのもこれまた偶然で(子供のころに親にグレン・ミラー・オーケストラのコンサートに連れて行ってもらったことはあったけど、それは何か分からなかった)、その中学の吹奏楽部の同級生が「兄がいる高校の学祭にいこう!」と遊びに行ったとき、そこで見たジャズのビッグバンドがあまりにもかっこ良くて、結局のそのクラブ(軽音楽部だった)に入りたいがためにその高校に進学し(視野が狭いです)、そのクラブに入ってビッグバンド、そしてジャズと出会ったのでした。

そしてまた同じパターンで高校2年のとき、そのクラブの2年上の先輩が所属していた大学軽音のコンサートを聴きにいき、そのビッグバンドがあまりにもかっこ良かったため、またその大学に進学し(ここでも視野狭いですね、他にも魅力的なバンド持つ大学あったのに!)、そのビッグバンドに籍を置くことになったのでした。そのため神戸に引っ越し、その土地で「木馬」や「コーナーポケット」といったジャズ喫茶、そして当時オープンしたての「Big Apple」などのライブハウスに出入りするようになり、出来たばかりのBlue Note Osaka(マネージャーが高校の先輩だった)や大学ビッグバンドを集めてやろうと始まったジャズフェス(今の大阪城ジャズフェス)で他大学の軽音の連中や(ちょうど音大にジャズ科が出来るか出来ないかの頃だった)、当時夜中にミュージシャンが集まっていた「Don Shop」で数々のミュージシャン仲間に出会って、いまの僕の礎が築かれました。

30年前、あの3人が偶然同じクラスにいなかったら、いま僕はこうしていないです、たぶん。その3人の一人とは年賀状のやりとりありますが、あとの2人は何をしていることやら。今こうしていられることに感謝したい気もしますが、「よくもこんな道に引き込んだな、チクショー!」と言ってやりたい気もしますね(笑)< 親はそう思ってるかもしれないw

****

で、30年、です。今まではまぁがむしゃらにやってきただけですが、じゃぁ今から30年後自分は演奏しているのだろうか?と考えると、少々疑問と不安を感じます。もちろんできるだけ演奏をしていたい(結局僕の音楽との関わりは、常に演奏者としていたい、というのが今の僕の望みです。無論聴くことも変わらないくらい大好きですが)けれども、73歳になって今みたいなペースでは到底演奏なんか出来ないでしょうし、そもそもそんな歳までわーわー演奏していないとやってられない生活というのも、うーんどうなんだろうという気もします、が、それも楽しいかも、とも思いますが。

なんとなくですが、今が真ん中ぐらいなのかな、と思っています。振り返って見ることのできる30年とは確実に違う30年が来るんだと信じていますが、そこには胸膨らむ期待より、漠然とした不安があり、気分をすこし暗くさせてしまいます。が、それでもここまで来たんだから、じゃああと30年やってやるもんね!としか言えないので、黙って突き進んでいくしかないですね。

とにかく、今は、この立ち位置に連れて来てくれた偶然、それを運んで来てくれた人たち、そして音楽とサックスに感謝するのみ、です。まだ聴いたことないメロディーと出会える日を楽しみに、今夜も音に思いを馳せたい、です。

2013.4.30 武井努

2013.5月のスケジュール

<table width="100%" border="0">
<tbody>
<tr>
<td>&lt; <a href="http://tsutomutakei.jp/schedule/2013-4">2013.4</a></td>
<td id="" lang="" dir="" scope="" align="right" valign=""><a href="http://tsutomutakei.jp/schedule/2013-6">2013.6</a> &gt;</td>
</tr>
</tbody>
</table>
<a href="http://tsutomutakei.jp/wp-content/uploads/DSC_0410_resize1.jpg"><img src="http://tsutomutakei.jp/wp-content/uploads/DSC_0410_resize1.jpg" alt="" title="flower" width="514" height="768" class="alignnone size-full wp-image-4341" /></a>

5/3(Fri) たけタケ
東大阪 俊徳道 <a href="http://www.c-road.org/">Crossroad</a> 06-6736-8870
20:00~ 2,000
[メ]清水武志(Pf)、武井努(Sax)

<a href="http://tsutomutakei.jp/wp-content/uploads/21263_445894312165476_154596819_n.jpg"><img src="http://tsutomutakei.jp/wp-content/uploads/21263_445894312165476_154596819_n-212×300.jpg" alt="" title="たけタケ0503" width="212" height="300" class="alignnone size-medium wp-image-4343" /></a>

5/4(Fri) <a href="http://edfonline.net/">E.D.F.</a>
■ <a href="http://www.0726.info/">高槻ジャズストリート</a>
17:00~ 生涯学習センター
[メ]清水武志(p)、武井努(Sax)、田中洋一(Tp)、光田臣(Ds)、西川サトシ(B)

<a href="http://tsutomutakei.jp/wp-content/uploads/538028_445894762165431_90164064_n.jpg"><img src="http://tsutomutakei.jp/wp-content/uploads/538028_445894762165431_90164064_n-212×300.jpg" alt="" title="E.D.F.0504" width="212" height="300" class="alignnone size-medium wp-image-4344" /></a>

5/7(Tue) <a href="http://www.flmg.jp/">Soul of Street</a>
大阪 なんば <a href="http://www.flmg.jp/">Flamingo the Arusha</a> 06-6567-4949
Open 18:30
Stage 19:30〜.20:20〜.21:20〜
前\2,500 当\3,000
[メ] AYUMI(vo)、ユンファソン(vo)、弘元ハチロー(bass)、ケン(gt)、吉田一哉(dr)、宮崎貴良(per)、堀かおり(key)
[ Horn Section ]築山昌広、小瀬晃弘(tp)、武井努(sax)、山内敦史(tb)

5/8(Wed) 北川/武井/野江
東大阪 八戸ノ里 <a href="http://blog.goo.ne.jp/kusalam">BAR 蓄音機</a> 06-4307-0080
20:00~ 1,800
[メ]北川真美(Vo)、野江直樹(Gt)、武井努(Sax)

5/10(Fri) New Orleans
大阪 梅田 <a href="http://azul-umeda.com/">Azul</a> 06-6373-0220
予約\1,500 / 当\2,000 19:00-
[メ]永田充康(Ds,Vo)、畑ひろし(Gt)、時安吉宏(B)、武井努(Sax)

5/11(Sat) We Are SOUL FEVER!
大阪 北新地 <a href="http://www.misterkellys.co.jp/index.html">Mr. Kelly’s</a> 06-6342-5821
19:30~ 前4,000/ 当4,500
[メ]松田一志(Vo)、東原力哉(D) from NANIWA EXP、西田まこと(G)、村瀬正樹(Key)、羽田北斗(B)、 武井努(Sax)、堂地誠人(Sax)、横尾昌二郎(Tp)、江崎愛(Cho)、河合かずみ(Cho)

5/13(Mon) 生島・武井DUO
高石 <a href="http://r.tabelog.com/osaka/A2705/A270502/27048934/">Re楽xs</a> 072-266-8839
19:30~ \1,500
[メ]生島大輔(Pf)、武井努(Sax)

5/15(Wed) MITCH
大阪 梅田 <a href="http://www.newsuntory5.com/">ニューサントリー5</a> 06-6312-8912
Start 19:30 \1,800
[メ]MITCH(Tp,Vo)、永田充康(Ds)、武井努(Sax)、時安吉宏(B)、杉山悟史(Pf)

5/16(Thu) Shu(Vo)
岡本 <a href="http://bornfree-kobe.com/">Born Free</a> 078-441-7890
19:30~ 2,500
[メ]Shu(Vo)、杉山悟史(Pf)、武井努(Sax)

5/18(Sat) 桝井正弘5 feat. 守屋純子(pf)
徳島市 <a href="http://bar-p-paradise.com/home.htm">P-パラダイス</a> -088-655-0813
18:30 Open / 19:00 Start
前\3,500 / 当\4,000 (1drk付)
[メ]桝井正弘(Ds)、谷口知巳(Tb)、武井努(Sax)、コティ正木(B)、MIHO(Vo) Special Guest : 守屋純子(Pf)

<a href="http://tsutomutakei.jp/wp-content/uploads/699_588546901155403_424422063_n.jpg"><img src="http://tsutomutakei.jp/wp-content/uploads/699_588546901155403_424422063_n-212×300.jpg" alt="" title="masui0518" width="212" height="300" class="alignnone size-medium wp-image-4345" /></a>

5/19(Sun) クラブ スーペルノーバ
大阪 心斎橋 ブルーノ・デル・ヴィーノ (ホテルトラスティ心斎橋1F)
Start 17:00 Ticket \6,500 (1モヒート&amp;1ドリンク&amp;ビッフェ)
※ドレスコード:セミフォーマル
SPECIAL LIVE : Super Nova Social Club
[メ]新井深絵(Vo)、ヤマダヨシオ(B,Coro)、倉さと子(P)、武井努(Ts)、亀崎ヒロシ(Per)、岡本健太(Per,Coro)
キューバンサルサレッスン : TOMOKO
DJ: MAMBO JUPON
主催 <a href="http://www.bar-supernova.com/">シガーバー スーペルノーバ</a>

5/20(Mon) TomoYuki &amp; 松田一志
大阪 梅田 扇町 <a href="http://www.always-live.info/">ALWAYS</a> 06-6809-6696
Open 19:00 Start 19:30
予約\2,000 / 当\2,500
[出] TomoYuki、松田一志(Vo)、武井努(sax)、城野淳(G)、半田彬倫(key)

5/21(Tue) tenor sax ensamble
神戸 三宮 <a href="http://www.bekkoame.ne.jp/i/big-apple/">Big Apple</a> 078-251-7049
19:30~ 前\2,500 / 当\2,800
[メ]荒崎英一郎、登敬三、辻田宜弘、杉本匡教、内藤大輔、古山晶子、秦ゆり、大竹亜矢子、武井努(以上全員ts)
guest: 岩宮美和(vo)

5/24(Fri) 阪井楊子(vo)
大阪 肥後橋 <a href="http://tabelog.com/osaka/A2701/A270102/27003830/">カルチェラタン</a> 06-6225-0007
19:00- \1,000
[メ]阪井楊子(Vo)、沖次夫(Gt)、家口直哉(B)、武井努(Sax)

5/25(Sat) 山内詩子(vo)
■帝塚山音楽祭
大阪 帝塚山 <a href="http://bar-navi.suntory.co.jp/shop/0666216616/">ラグタイム</a> 06-6621-6616
18:00〜
[メ]山内詩子(Vo)、清水武志(Pf)、大塚恵(B)、武井努(Sax)

5/28(Tue) 武井・馬田DUO
寝屋川 萱島 OTO屋 080-6126-1529
20:00~ 2,500
[メ]武井努(Sax)、馬田諭(Gt)

5/29(Wed) 清水武志4
岡本 <a href="http://bornfree-kobe.com/">Born Free</a> 078-441-7890
19:30~ 2,500
[メ]清水武志(Pf)、武井努(Sax)、大塚恵(B)、光田じん(Ds)

5/30(Thu) 武井vs河村 Tenor Battle
大阪 梅田 <a href="http://azul-umeda.com/">Azul</a> 06-6373-0220
予約\1,000 / 当\1,500 19:00-
[メ]河村英樹(Sax)、武井努(Sax)、時安吉宏(B)、橋本現輝(Ds)

5/31(Fri) E.D.F.
大阪 桃谷 <a href="http://www.ms-hall.com/">M’s Hall</a> 06-6771-2541
20:00~ 1,800
[メ]清水武志(p)、武井努(Sax)、田中洋一(Tp)、光田臣(Ds)、西川サトシ(B)

有川浩 – 植物図鑑

相変わらず楽しいです、有川さん。そして扱うネタもおもしろく、そして意外な組み合わせ。これだけあったらほんとごはん3杯ぐらいいけそうな、そんなお話が詰まってました。で、やっぱりとろとろにラブコメだけどw。あまりにおもしろかったので一気読み(食い?)してしまいました。

身の回りにいくらでもあるけれど、普段はまったく気にしないそのへんの雑草たち。知りたいなとは思うけれどよっぽどの機会がないと憶えられない植物/花のなまえ。昨年育てたあさがおのようにずっと付き合うと自然といろいろ憶えるけれど、街や川の土手や山なんかに生えている本当にたくさんの植物の名前、見たときはふーんとおもうけれど、結局全く憶えられない。憶える気がないのかというとそうではなくて、単に憶えるだけじゃなくて、何かとセットじゃないと憶えない(憶える気にならない)のかもしれないな。

そういう点でこの「植物図鑑」はたんにそのへんの雑草(雑草にはすべて名前があるそうです)の名前を羅列するだけじゃなくて、食べたり飲んだりすることと組み合わせてくれたので、俄然憶えたくなりました。またどの料理もうまそうで、同じ素材(雑草)でも料理屋で食べるものもいいけれど、そうやって自分の手で摘んだものを自分で料理するってのはとても楽しいんだろうなーと、強烈に思ったから。そういう目でみてたらその辺の道ばたの道草がなんでも食べられそうに思ってしまうのは、あまりにも短絡過ぎかも、だけど。

なんせ、普段インドア傾向だけれど、ちょっとその辺でこんな楽しい思い(冒険?)ができるなら散歩も悪くない、いや、散歩はもともと好きだけれど、なぜか散歩するときは上ばっかり見てたので、今度から下向いて歩こうw。そんな気持ちをわかせてくれるくらい、ほんと身近なところにたくさんの素敵な草花があって、それらはとっても面白いよとこの本は教えてくれた。有川さんありがとう。

有川さんのこのラブコメ度は苦手(とくに男子)かもしれないけれど、新井素子さんや栗本さんを読んでいたからか、全然ましなような気がする(もっと爽やかかな)。苦手でもはまると面白いんだけどなー。

子供の頃は父が好きで、タケノコ掘ったりワラビ採りにいったりしたけれど、子供の頃はその面白さはいまの万分の一も感じてなかったんだろうなーと、今更ながら悔しいです。あれ一体どこいってたんかなぁ。も一回行きたいなあ、今行ったらきっと楽しいのに。

辻仁成 – 愛をください

辻さんでこのタイトルだとどうしてもZOOって歌を思い出してしまうけれど、それとは関係ないのかあるのか。久しぶりに読んだ辻さん。巻末に辻さんの著作一覧が載っているのだけれど、辻さん久しぶりだなと思ったのは道理で写真とか絵メインのやつ以外はほとんど読んでる。気づいてなかったな。まぁ、辻さんの本は好きだがまた読み返すかどうかはわからないけれど。

この本はある2人の文通だけで綴られた作品。親に捨てられ孤児として育ち人生に何の希望も持てない17歳の女の子と、同じく親に捨てられたが養父母に拾われなんとか育ったという二十歳過ぎの男。養育施設のある人を通して知り合った(男から女の子に文通が持ちかけられる)2人だが、「絶対に会わない」というルールのもと、そのときの本当の気持ちを語り合う。それを通して2人の愛とはまた違う信頼関係が築かれていくことになるのだが。

こういうパターンだとなんとなく先が読めてしまうのだけれど、辻さんが用意したストーリーはやがて全然違う様相を見せ、意外な結末を迎える。なるほどと思うけれど、救いがあるのかないのか、わからない、受け止め方によるのかも。希望も何もない女の子が生きる希望や愛というものを享受できるようになる/なったのか、というあたりが読ませどころ。

キャラが2人しかいないので(正確には違うけど)、彼らが書いた(という設定の)文章を読んでそこから勝手に想像する彼ら2人の像が楽しい。女の子のほうの文はいかにも女の子っぽいのだけれど、男のほうの文章って、わざとそうなのか、若い男がなんだかちょっと大人っぽく書こうとして書ききれてなかったり、読んでいて恥ずかしかったりする感じが、もしかして辻さんの狙い通りなら、すごいなぁと思った。

江國香織 – 左岸

 

そういえば江國さんの読み始めは当時話題になった「冷静と情熱の間」だった。その著作もこの「左岸」と同じく辻さんとの共作(同じ物語を違う主人公の視点から描く)だった。

主人公茉莉の幼少時代から大人(中年?)までを描いた物語。物静かな父と派手な母、思慮深い兄をもつ茉莉は子供の頃からひとりでうたって踊るのが好きだった。そんな子供時代に一番頼りにし、世界への扉だった兄の突然の自殺により、周りが一気に変化してしまう。やがて母がいなくなり、自分自身も産まれ育った博多を離れて東京へ駆け落ち。そこからも土地を男を変遷し、やがて結婚/出産したり、出会った一人の画家に誘われフランスに言ったりと、自由奔放に生きていくが、その時々に顔を出すのが、幼少のころ兄と一緒にいた隣に住む九ちゃんだった。。。。

ひとつひとつのエピソードはすごく身近な感じなのに、こうやってまとめて読まされるとなんとおおきな物語なのだろう。そしてどれもこれもが偶然に積み重なっていっているはずなのに、ずいぶん年月が経ってからわかる死んだ兄の陰。何か大きなものでループさせられている感覚。

派手な主人公なのに、文章からは騒々しさはまったく伝わってこなくて、カーテンから漏れる淡い日光や、遠くに聞こえる喧噪、花の美しさ、物静かなことば、などなど、やっぱり江國さんは江國さんで素敵。でもその奥底に流れる大きな、でも決して暴れ出てくることのない、そんな力(運命?)みたいなものがすぐ横にある感じがすこし怖くて、でもいい感じ。

まるで茉莉の一生を一気に体験したような気がした。素敵だけれどちょっと寂しくて、それでいてごく普通、なのかもしれない。辻さんの「右岸」も読んでみよう。

柴田トヨ – くじけないで

今年1月に101歳で亡くなられた柴田さんの詩集。実はこの「くじけないで」だけでなく百歳を記念して出版した「百歳」とのセットを入手。どちらもいい装丁(木村美穂)で手に取るだけでじんわりほっとする。いい感じに作るだけでなく、柴田さんのその人柄を現すかのような丁寧な本たち。それだけでうれしい。

日記にも書いたけれど、少し前まではとてもお年を召してデビューした詩人さんがいる、ということぐらいしか知らなかった。が、今年の正月に実家においてあった(母が貸してもらったといっていた)この詩集を手にしたとき、一目でこれはちゃんと入手してじっくり味わいたいな、と思ったほど、その柴田さんの紡ぐことばの、なんともいえない優しさ、暖かさ、朗らかさ、そのようなものに魅せられたのでした。

かんたんな言葉で綴られる彼女の詩は、なんでもないことなのに、どうしてこうもストレートに心に入り込んでくるのでしょう。べつにドラマチックでもないし、ハッパをかけられるわけでもないし、力強いメッセージを訴えかけてくるわけでもない。でも、言外に、行間に、ちょっとした物語や応援歌、人生の機知、ユーモア、悲しみ、いろいろなことが滲みだしている。そしてそれらを母のような微笑みをもって伝えてくれている、そんな気持ちになる。もともと詩を読むというのは不得意なのだけれど、彼女の言葉はすんなり受け止められる。

そして何より伝わってくるのが、そのまるで少女のような初々しさ。長い人生を生きた先輩から贈られた重々しい言葉ではなく、可憐な少女が何気なくつぶやいたちょっとした言葉がものごとの本質を表していた、というような。こんな瑞々しさはいったいどこから来たのだろう。もともとなのか、人生をめぐってまた得られていくものなのか。どうなのかはわからないけれど、百年生きてまたこういう気持ちになれるのなら、なんて人生は素敵なんだろうと希望をもたせてもらえて、とてもうれしい。だから詩集を読んで思うことは「ありがとう」という感謝の気持ち。

なにごとにも真摯に、一生懸命に。それだけで素敵なことであるはず。
柴田さん、ありがとう。

宮部みゆき – 天狗風

以前読んだおなじ宮部さんの「震える岩」の続編。岡っ引きの六蔵の妹お初がその類い稀なる能力で難事件に立ち向かう。

今回は神隠し。若い娘の突然の謎の失踪、お初を襲う謎の風、吹き矢、しゃべる猫、、、、事件を追うと違うものに出会い、なかなか核心に迫っていかない。そこでやきもきしてしまうのだけれど、すべてはある一点に絡んでおり、やがて見えてくる一連の事件の正体は・・・。

どっぷりオカルト的な話になっているけれど、やはりそこも人の裏側というか人間が生み出す魔物として描かれる。あまり時代劇的要素はなくて現代劇のように読めてしまうのは宮部さんの筆だからか。それぞれの六蔵や右京之助などキャラクターもちょっとずつはっきりしてきたし、シリーズ物になっていくのかなぁ(知らない)。

猫としゃべれるという部分に異様に憧れてしまう(笑)