夕映え天使 – 浅田次郎

浅田さんの本は重松さんの物語たちよりより切ないというかもう少しハードボイルドというか、うまく言葉で書けないけれどなんだかもう少し客観的とか俯瞰的に物語を見ているような感じがする。主人公たちに同化するというよりも、間近から見ているという感じ。なのでこちらのほうがよりドラマチックでものすごいこと起こったりもするのだけれど、なんだか冷静に眺めていられる、とか、そんな気がする。

表題である詳しく事情を知らないが一時居候していた女性を描いた「夕映え天使」、子供の別れの言葉が切ない「切符」、のどかな男の退職風景かと思えば恐ろしくSFだった「特別な一日」、寂しい北の漁師町で男達が出会う「琥珀」、夢の中の少し残酷なおとぎ話のような感じがする「丘の上の白い家」、そして作者自身の経験も含んで描かれたのか「樹海の人」。全6短編ともぜんぜんタッチも素材も違っていて面白く、一気に読んでしまった。

特に好きだったのは「特別な一日」。そういえば会社を退職したときってこんな感じの気持ちがしたよなぁとか思い出す。そんな男の悲哀の話かと思ってたら、一転して「え?」的な展開になって、やがてなるほどそういうことねと納得させられる話の進みようが非常におもしろかった。ちょっと伊坂さんの本思い出すなあ。あと、「切符」はやたらと国鉄のガードとかあの固い厚紙の切符を思い出させたし、「琥珀」は先日のNHKの朝ドラ「あまちゃん」のベンさんを思い出させた。そう、なんだか浅田さんの物語はなにか想い出をくすぐるものがある。そこに惹かれるのかな。

あとがきを読んで浅田さんがすごく面白いというか変わった経歴の持ち主とだということを初めて知った。敬愛する作家の謎を追って自衛隊に入隊したそう。なので最後の「樹海の人」はほんと本人の体験談なんじゃないかなと思ってしまう。子供の頃は裕福な家庭に育ったそうだけれど、両親が失踪したり、また母が引き取りにきたり、自衛隊退官後後も会社を興しては倒産させてしまったりもしていたそう。そういった人生の層というか浮沈というかが浅田さんの描く物語の世界観につながってるのは間違いないと思うけれど、しかしいろんな世界をみてきたんだろうな。想像できない。だから本をこうやって読ませてもらえる。いい物語を。

新潮文庫 2011

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