辻仁成 – ピアニシモ・ピアニシモ


たしか辻さんには「ピアニシモ」って本もあって、それは以前読んだはずだけれど、この「ピアニシモ・ピアニシモ」と勘違いしてないかなーなんて心配しながら(よく同じ本買ってしまうのです。この本の前に同じ辻さんの「青空の休日」を買って読んでて、途中で読んだことあることに気づいたけれどおもしろかったので最後まで読みました、が)読み始めましたが、これは読んだことなかったのでほっとしました。最近の本だもんそりゃ当然ですねぇ。

うまくリアル社会との適合ができずにどこでも「いるだけの人」になってしまう主人公トオル。そして彼だけに見える親友ヒカル。彼が通う学校では以前生徒が殺されるという事件が起きていた。そしてまた同じような事件が起ころうとしている。そんなときにトオルがであう少女の幽霊。それは殺された女生徒だった。そして学校を徘徊する殺人者とおぼしき人物。謎をおうトオルがたどりつくこの中学校の地下にひそむもうひとつの中学校。トオルは生きて帰れるのか?

SFでもファンタジーでもノンフィクションでもない、ぼくにとってはすごく”辻さんぽいな”と思える作品だった。表現とか話の進みかたとか主人公の生き方の刹那的加減というか、ともすれば脈絡なくなってしまいそうな部分とか、無機質、ハード、暖かみが相容れないような感触とかとか、そういった世界観とか。そんな中で主人公トオルと不思議と心を通わせるこれまた不思議な同級生シラト。彼は身体は女性だけれど心は少年。そのどちらでもなくどちらももった人間が絶望しがちなトオルに生きる勇気と希望を与える。全体の雰囲気が暗く冷たいからシラトの存在が暗闇を遠くから照らす太陽のように暖かく感じる。温度とか、湿度とか、そういうものが吹き込んでくる。

全体の話の流れ方とか筋とかが緩急とか山谷とかそういう感じではなくて、破綻しているようでぎりぎり破綻してなくて、跳躍したりしてそうでしてなくて、という不思議な読感のある文章で、少年たちの心、社会のゆがみ、なんかの音がギシギシきこえてきそうで息苦しくなる感じ、これぞ辻ワールドだと思うんだけれど、どうだろう。うまく書けないけど。

いいのか、おもしろいのか、なんともわからないけれど、何か心に引っ掻き傷(嫌な感じじゃない)がのこる作品だった。

文集文庫 2010

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