西加奈子 – さくら

はじめて読む西さん。たしかなんかの席でラッパのコウくんにこの西さんを勧められて適当に手に取ってみた。

ある一家のおはなし。子供の頃から街中の注目を一心にあびて何でも出来て、かっこいい、そんなヒーローだった兄が事故にあい、命はとりとめたもののその後死んでしまって、そこから家庭はおかしくなってしまった。超兄想いだった妹は人と関わらなくなり、父は失踪、母はやたらと太って、主人公のぼくは家をでて東京へゆく。そしてかわらなく家にいるのは、顔にぶちのある犬、さくら。そんな見捨てた家だったのに、ある日失踪していた父から手紙が届く。年末に帰ってくると。そこでぼくも久しぶりに実家に帰ることに。。。

どこか不思議な、意識がちょっとだけゆらゆらしている時間に経験するような、明瞭だけれどぼやけていて、それでも嫌じゃない、あんな感じの感触がある。おもに物語が昔話ばかりだからかもしれない。何か遠い昔のできごとを思い出すとき、目をあけていて何かそこに映っていても、昔の映像がフォーカスしてきてそれに薄く重なってくる感じ。文章にどういう工夫があるのかわからないけれど、そういう感覚をおこさせるものがあるように感じた。なんだろう、うまく書けないけれど、ゆっくり断片的な記憶を掘り起こしていって、それらが繋がって行く時の「ああ」という感じ。久しくそういうことしてなかったから、その懐かしい感じ(懐古する感じ)を味わう。子供のときの記憶って、なぜかぜんぶ白いよね。

ストーリーのことは、なんだかうまくまとめられそうにないので書かないけれど、すごく気に入ったのは、サキコさん、の下り。すごくおもしろいシーンということもあるけれど、実はすごく考えさせられる部分だとおもう。サキコさんはぼくと兄と妹にいう「いつか、いつk、お父さんとお母さんに、嘘をつくときがくる」「嘘をつくときは、あんたらも、愛のある嘘をつきなさい。騙してやろうとか、そんな嘘やなしに、自分も苦しい、愛のある、嘘をつきなさいね」なんていい言葉。他にも好きなシーンあるけれど、ここが今は一番印象に残っている。

そして、ぶちのある犬、さくら。彼女がまたかわいい。一生懸命にしっぽを振ってなにか話しかけてくる。たとえば「あああ、こんなにタワシがいっぱい!」とか「ボール!あの、軽やかな跳ね!」(笑)。うちは猫がいるけれど、ニュアンスは違うけれど、動物の家の中での立ち位置ってこんな感じ。すごく救われる。猫なんていてもいなくても同じように寝てるだけなのに。

あとこの舞台がほとんど大阪弁で描かれているのも、なぜかすっと物語にとけ込めた要因かも。そう、なんか物語を読んだ、というより、とけ込んだ、という感じのする本だった。もっと西さん読もう。

小学館文庫 2007

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