谷川俊太郎、松本大洋 – かないくん

最近また訪れるようになったほぼ日こと「ほぼ日刊イトイ新聞」というサイト、オープンしたころはよく見てたのだけれど、もうずっと見てなかった。けれど、ふとしたことからまた毎日訪れて眺めるようになってる。やっぱり糸井さんは面白い、ウィットに富んでる。まぁ関西人としてはどうしても中島らもさんと比較しちゃうところあるんだけれど。

まぁそれは関係なく、久しぶりにながめたほぼ日はすごくコンテンツが変わっていて、そしてそのコンテンツや糸井さんのまわりから仮想世界を離れてリアルなものが作られるようになってた、手帳だけかと思ってたら。

そのなかで最近でたのが、この絵本、「かないくん」。印刷についての対談というかプロジェクトの話のコンテンツがあって(もちろんこの本をつくるとなっての話だったが)、それがいままでぼくがCDアルバムとかをつくるときに考えていたようなことと共感することがすごくあって、とくにこの絵本の場合は、松本さんが描いた絵の、白、をどう表現したらいいのか、鉛筆の線をどう印刷したらいいのか、ということがすごく語られ試行錯誤したそうで、それがどんな風になったのかということにとても興味をもって(もちろんこの絵本の内容もだけれど)、入手してみた。

なんせ、発色が綺麗だなと第一印象。そしてページ毎に印刷の加減か手触りが変わったりするのもすごくいい。議論になっていた鉛筆画はまるでそのページに描いてあるような薄いタッチまでちゃんと印刷されたものだし(そりゃほんとの鉛筆で描いたらへこんで立体的になるだろうけれど、一瞬、え?と思えるぐらいの感じ)、何より白がとてもいい。白が白い。普通の印刷だったら白は使っている紙の色に左右されるんだろうけど、これはちゃんと白だ。白で印刷した上に、普通に印刷してその中で松本さんが描いた白を印刷してるそう。コストとか手間考えたら普通やらない。でもそれをやってる。それは、そうしたかったからであり、そうした方が松本さんの意図が、見えてるものが、描かれたものがよりよく読者に伝わるわけで、とても大事だけれど、いまの社会システムでは打ち捨てられがちなこと、もしくはウリにしたりする。

ぼくはたまたまその制作過程の話を読んだから(もちろんそこに興味持ったからであったけど)この、白、を見て、触って、おおお、とおもったりするけれど、知らなければ普通にスルーするかもしれない。でも、何人かは、すごいと思うかもしれないし、おや?と思うかもしれないし、思わなくても感じるかもしれない。モノを作って、コストのこととかも考えないといけないけれど、そのモノをできるだけ思った通り(印象や考え、感じて欲しいこと)に人に手渡すには、モノの意味や機能だけじゃなくて、こういう一見無駄なことに見える部分に大事なことが含まれることが多いと思う。そこをおろそかにしてしまうと、意味は伝わっても、大事にはされないかもしれない。ぼくがいる世界、音楽の中にはそういう面がたくさんあると思う。

谷川さんの書かれた詩については、いまはまだわからない。すごく抽象的なイメージが伝わってくるけど、言語化はできない。帯のことばが邪魔しているところがある。子供が読んでも大人が読んでも、同じことを、違う側面から感じ取れる、そういう風に書かれているような気がする。

松本さんの画は、とにかく、素直さと、うっとおしくない愛が感じられる。感じた、イメージしたそのままを、限りなく正確に描いた、そこには邪な感じはなく、ただただ素直に描ききった感じ。いたわり。客観的にどう見せたいかとかじゃなくて、あくまで松本さんの気持ちを主観的に描いたものがそのまま伝えられるようにと、まっすぐに描かれている、そんな印象をうける。

なんせ、間をあけて、ページを開いてみないと。絵本なんてぱーっと読めば、すぐにおわっちゃうけど、時間をかけたり、あるタイミングで見たりすると、また違う風に、見えなかったものが見えたり、読めなかった意味が視覚から伝わってきたり、そんな不思議なメディアなんじゃないかなと思う。

また何度も読む。

***

個人的な意見だけれど、いろいろ必要あってこの絵本には帯がついてる(大概単行本や絵本ってついてる)のだけれど、それはいいけど、この絵本の場合はなんの先入観もなく谷川さんと松本さんの世界に飛び込みたかったので、売り文句はいらないと思うなぁ。せめて裏面にかくとか。前もって内容をある方向の視点からスタートさせるような文句は没頭するまでもしかした邪魔になるかもしれない。今回はそう思った。

東京糸井重里事務所 2014

コメントを残す