江國香織 – 抱擁、あるいはライスには塩を

 
まったくもって意味がわからないタイトルだけれど、それは物語を読めばわかる。不思議な(少し世間とはずれた)一家の物語。4人の兄弟姉妹とその両親、叔父伯母、祖父祖母、同居する彼らの物語。ただ祖母はロシア人であり、この一家はみんな少し外国人の風貌をしている。こういうとそう変わってもいないけれど、彼らは古い大きな洋館に住み、一家の方針は”義務教育は家族が子どもに教育を受けさせる義務なのであり、だからこそ学校へはやらずに家庭内で教育を施す”。だから兄弟姉妹は家でのびのびと、嫌な世間知ることなく育っている。

そんな家庭であるのに、ある日父が子どもたちを小学校にやろうとするところから話は始まる。結局それは数ヶ月で終わるものになってしまうのだけれど、そこから仲良く同じように育っていた子どもたちが少しずつ分かれて行く。それは成長ともいえるのだけれど。そして、実はこの兄弟姉妹のうち2人は父が、母が違うということが明かされる。そこから家族一人一人の物語へ。場所や時を越えてばらばらに語られつつもやがて一つにまとまるある家族の大きな波乱に満ちた(そしてまことに不思議な)物語。

一般的に書いてしまうとなんてむちゃくちゃな家族なのか(いろんな家族の寄り集まりである)ということになってしまうのだけれど、そうはなってなくて、その普通なら異常ともとられてしまうような状況なのに、一家は安定して、ある秩序を守ってまとまっている。それがなぜなのか、なぜそういうことになるのか、それがじっくり語られる。

祖父祖母が作り上げた籠の中でしか生きられない(世間とはずれていて生きづらい)家族といえばそうなってしまうのだけれど、そこには家族とか愛人とか継母とか養子とかそういったたぐいのものをひっくるめて、愛といたわり、そして諦観ともいえるもので強く結びついた人々なんだということが徐々に語られて、読者にその大いなる物語が示されて行くのが、なんとも感動的。

いったい江國さんの各人物の姿、数々のエピソード、そういうものをどうやって生み出したのかがとても気になる。それほどにこの100年ぐらいに亘る物語が壮大すぎて。壮大なのに、全体の流れだけでなく、描かれる物語たちのディティールがはっきりしているし。どの人物にも感情移入してしまえるので、ぼーっと読んでいるといまがいつで誰の物語か迷ってしまいそう。

集英社文庫 2014

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