有川浩 – シアター!2


シアター!」の続編。人気はあるけれど万年貧乏の小劇団「シアターフラッグ」が背負った赤字は300万。春川司はそれを肩代わりするかわりに劇団を主宰する弟・巧に出した条件は”2年間で劇団の売り上げで返済すること。できなければ解散”だった。

そんな条件を出され、そこに声優でもある羽田が加わったことから劇団が分裂し、再出発をし、司の鉄血のおかげで公演では黒字を出せるようになった劇団だったが、2年での完済にはまだ遅いペース。しかし少しずつ劇団はいい方向に向いていた。が、そこにまたいろいろ問題が噴出。メンバーのまとまりも危うくなる中、シアターフラッグの今後はどうなるのか?

今回は有川さんもあとがきで書いているように、個々のメンバーがクローズアップされているような感じになっている。前作では春川兄弟が中心となってすすむストーリーだったけれど、今回はメンバーの顔がもっとはっきり見えて楽しい。個人的には不思議ちゃん的な(天然な?)茅原が好きだなー。ああいう飄々としたのは(ちょっとちがうけど)憧れるなあ。そして有川さんといえば的な恋愛要素(でもべとべとでない)も入って来て、ますますこの劇団の行く末が楽しみに。次巻でどう完結するんだろ。というかするんかな?

各章の話と劇団が演じた芝居をうまくオーバーラップさせていて、うまいなーと思う。台本(という設定の文章)が差し込まれていてニクい。

メディアワークス文庫 2011

五代ゆう – パロの暗黒(グイン・サーガ 131)


2009年に栗本さんが亡くなってしまい、その後しばらくして出版された130巻を最後に未完となってしまったグイン・サーガ・シリーズだけれど、先日本屋さんにいって、見たことない巻があるのを見つけて「え?!」と思って手に取った、131巻。どうやら栗本さんが主宰していた(のかな?)天狼プロダクションがファンなどの熱い思いに応えて、続き(正確にはそうではないけれど)を出版することにしたよう。なんてうれしい。なんて素敵な!

数人の作家さん(もちろんグインの大ファンである)たちがかわるがわる物語を紡いで行くそう。でもそれは栗本さんが絶筆した箇所からではなく、もともと正伝で計画されていた最終巻のさらに後の話(つまり外伝一巻「七人の魔導師」のあと)の話。

というわけで、思いっきり30年ほど栗本グインワールドにどっぷりだった自分が、この新しく始まるシリーズをどう感じるのかおそるおそるページを開いたのだけれど、、、、、ああ、リンダやヴァレリウス、イシュトバーンにマルコなど懐かしい面々、パロの町並み、行き交う人々、広々とひろがる中原の景色、またあの世界が戻って来た!

たしかにテイストは違うし(それは五代さんがあとがきでもはっきり書いている。「五代のグインを書きます」と)、同じ世界を描いて、同じものがでてきたとしても、選ぶ言葉も違うし、行間の感じや筆の進み具合も違う。でも、それでも、あの続きが、というかあの世界にまた浸らせてくれ、新しい物語を見せてもらえる喜びにはかえられない。また、少しずつ変化していくとはいえ、目を瞑ればありありと思い出せる、ここではないどこかに確かに存在する世界(行ったことある外国よりよっぽど鮮明な感じがする)を覗くことができるのはとてもうれしい。この企画を立ち上げてくれたプロダクションに感謝。

話はグインいるサイロンでの魔導師たちによる怪異のあと、未だに疲弊しきってるパロにいる女王リンダと彼女に無理矢理求婚してきた古いなじみであるイシュトバーンのその後。一度は体よく断られたイシュトバーンだったが、あきらめきれずにひそかにパロに舞い戻りリンダに近づこうとするが、それをヴァレリウスに阻まれる。が、そこに得体の知れない魔導師が現れ、、、、パロの街に起こる怪異、そしてイシュトバーンの前に現れる、現れるはずのない人、、、、ああ、先が楽しみ、早く読みたい!

ハヤカワ文庫 2013

2014.11月のスケジュール

2014.10 2014.12 >

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※先の予定は随時変更されることがあります。

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11/1(Sat) MITCHオールスターズ
岡崎ジャズストリート2014
愛知 岡崎 岡崎ニューグランドホテル 0564-21-5111
14:30~ /17:30〜
前売 単日券\4,000 両日券\7,000 / 当日 単日券\4,500
[メ] MITCH(Tp, Vo)、武井努(Sax)、小林創(Pf)、清水興(B)、永田充康(Ds)、富永寛之(Gt)
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11/2(Sun) MITCHオールスターズ
岡崎ジャズストリート2014
愛知 岡崎 岡崎信用金庫 本店(2F) 0564-25-7230
14:30~ /17:30〜
前売 単日券\4,000 両日券\7,000 / 当日 単日券\4,500
[メ] MITCH(Tp, Vo)、武井努(Sax)、小林創(Pf)、清水興(B)、永田充康(Ds)、富永寛之(Gt)
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11/2(Sun) satoko + たけタケ
愛知 西尾市 Jazz club intelsat 0563-35-0972
20:00〜 前\2,500/当\3,000
[メ] satoko(Vo)、清水武志(p)、武井努(Sax)

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11/3(Mon) satoko
名古屋 Valentine Drive 052-733-3365
19:30〜 前\2,700/当\3,000
[メ] satoko(Vo)、清水武志(p)、出宮寛之(b)、則武諒(ds)、武井努(Sax)

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11/4(Tue) 長谷川・武井
大阪 谷町9丁目 SUB 06-6762-3226
[メ] 長谷川朗(Sax)、武井努(Sax)、ほか
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11/7(Fri) UN-NATURAL
■ BIG APPLE The 25th Anniversary Special Live 月間!!
神戸 三宮 Big Apple 078-251-7049
19:30~ 前\2,000 / 当\2,300
[メ] SHU(Vo)、藤山龍一(Gt, Vo)、guest:武井努(Sax)
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11/8(Sat) YOKO La Japonesa Salsera
■ YOKO Japan Tour 2014
大阪 肥後橋 Voxx 06-6225-2100
前\4,000 / メール予約\4,500 / 当\5,000(w/1drink+レッスン+ライブ+パーティー)
[メ] Yoko Mimata(Vo)、中島徹(Pf)、荒玉哲郎(B)、とくじろう(Perc)、亀崎ヒロシ(Perc)、岡本健太(Perc)、梶原徳典(Tb)、築山昌広(Tp)、広瀬未来(Tp)、武井努(Bs)、Ravi(Coro)、Macomo(Coro)
[チケット] pegao social 090-7492-8670 g83chanchi@msn.com / VOXX 06-6225-2100 info.voxx@gmail.com
18:00- 無料レッスン(初心者向け)
19:00- ダンスパーティー
20:00- オープニングアクト(1)
20:10- ライブ 1st set
21:00- ダンスパーティー
22:00- オープニングアクト(2)
22:10- ライブ 2nd Set
23:00- ダンスパーティー

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11/9(Sun) YOKO La Japonesa Salsera
■ YOKO Japan Tour 2014
名古屋 ホテル名古屋ガーデンパレス 3F 錦の間 052-957-1022
前\3,000 (2drink付) / 当\3,500(1drink付)
18:00 Open 18:30 Live Start
[メ] Yoko Mimata(Vo)、中島徹(Pf)、荒玉哲郎(B)、とくじろう(Perc)、亀崎ヒロシ(Perc)、岡本健太(Perc)、梶原徳典(Tb)、築山昌広(Tp)、広瀬未来(Tp)、武井努(Bs)、Ravi(Coro)、Macomo(Coro)
[予約・問]マコンドサルサダンススクール ホアキン 052-252-5303
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11/11(Tue) 武井・馬田DUO
西宮 Three Codes 0798-55-5184
19:30~ \1,000 (つけだし\500)
[メ]武井努(Sax)、馬田諭(Gt)
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11/12(Wed) THE MICETEETH
スペースシャワー列伝 第117巻 夢の宴
東京 新宿 LOFT 03-5272-0382
18:00 Open / 19:00 Start
前\3,800-(税込、ドリンク別) オールスタンディング
[出] THE MICETEETH / キセル / 奇妙礼太郎
[チケット] イープラス / チケットぴあ (Pコード 244-568) / ローソンチケット  (Lコード 75933)

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11/14(Fri) WE are SOUL FEVER !
大阪 東心斎橋 SOMA 06-6212-2253
open18:30 start19:30 前\4,000 当\4,500
[メ] 東原力哉(Ds)、松田一志(vo)、西田まこと(Gt)、武井努(sax)、堂地誠人(sax)、羽田北斗(B)、村瀬正樹(key)、広瀬未来(Tp)、江崎愛、岩田サオリ(Cho)

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11/15(Sat) THE MICETEETH
■ KYOTO MUSE SPECIAL LIVE【ready for 25!!】
京都 四条 KYOTO MUSE 075-223-0389
18:00 Open / 19:00 Start
前\4,000 / 当\4,500 (ドリンク別)
[LIVE] THE MICETEETH / 奇妙礼太郎トラベルスイング楽団
[DJ] Westy Bong Bong! CREW / SHIM TATSUYA and belobelobelo
[LIVE PAINTING] SIMIZ・PAMO
[FOOD] JAPONICA / café and bar Cham
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11/16(Sun) 東日本大震災チャリティー
神戸 元町 cafe 萬屋宗兵衛 078-332-1963
15:00 Open 15:30 Start-17:00 Close ノーチャージ カンパ制(全額赤十字を通して寄付しますよ!)
[出演] 武井努(Ts)、柏谷淳(As)、横尾昌二郎(Tp)、池田杏理(Vo)、末元紀子(Vo)、木畑晴哉(Pf)、永田有吾(Pf)、木村知之(Bs)、光田臣(Ds)
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11/16(Sun) しのMINT
大阪 芦原橋 cafe Make 06-6562-3294
19:15 Open / 19:45 Start \2,300(ドリンク別)
[メ] 大倉詩乃美(Vo)、清水武志(Pf)、武井努(Sax)、折笠誠(Perc, Cello)、林みなこ(B)

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11/17(Mon) 松田一志
岸和田 旬彩 dining sushi なかの 072-437-1711
open18:00 start19:30
前\3,000 / 当\3,500
[メ] 松田一志(vo)、武井努(sax)、城野淳(G)
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11/20(Thu) 清水勇博3
岡本 Born Free 078-441-7890
19:30~ 2,500
[メ]清水勇博(Ds)、萬恭隆(B)、武井努(Sax)
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11/22(Sat) 中島・武井Duo
豊中 我巣灯 06-6848-3608
19:00- 2,000
[メ]中島教秀(B)、武井努(Sax)
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11/24(Mon) TomoYuki
京都 木屋町 Modern Times 075-212-8385
open 18:00 start 19:00 \2,000(1drink, 1food別途要)
[出演] TomoYuki(vo)、松田一志(vo)、Myah(vo)、武井努(sax)、城野淳(G)
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11/25(Tue) 武井・馬田DUO
寝屋川 萱島 OTO屋 080-6126-1529
20:00~ 2,500
[メ]武井努(Sax)、馬田諭(Gt)
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11/26(Wed) THE TOMOMI AZUMA BAND 2014 / LIVE RECORDING LIVE !!!!
■ BIG APPLE The 25th Anniversary Special Live 月間!!
神戸 三宮 Big Apple 078-251-7049
19:30~ 前\3,000 / 当\3,500
[メ] 東ともみ(B)、牧知恵子(Pf)、池田安友子(Perc)、清野拓巳(Gt)、田中洋一(Tp)、横尾昌二郎(Tp)、武井努(Ts,Ss,Fl)、當村邦明(Ts)、中山雄貴(Tb)、西本翔一(Tuba)
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11/28(Fri) E.D.F.
大阪 桃谷 M’s Hall 06-6771-2541
20:00~ 1,800
[メ]清水武志(p)、武井努(Sax)、田中洋一(Tp)、西川サトシ(B)、光田じん(Ds)
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11/29(Sat) たけタケ
東大阪 俊徳道 Crossroad 06-6736-8870
20:00~ \2,000
[メ]清水武志(p)、武井努(Sax)
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11/30(Sun) MITCH ALL STARS LIVE!!
泉佐野 泉の森ホール マルチスペース 072-469-7100
13:30 Open 14:00~16:00 前\2,700 / 当\3,000
[メ] MITCH(tp.vo)、武井努(sax)、加納新吾(p)、時安吉宏(b)、永田充康(ds)、小柳淳子(vo)
[問] 090-3354-7359 Sen-Nan Jazzを広める会(松浪) cela-sora-chaika@rinku.zaq.ne.jp
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11/30(Sun) 神大Jazz現役&OBオープンジャムセッション
神戸 元町 cafe 萬屋宗兵衛 078-332-1963
Start 19:00 \500
[ゲスト]武井努(Sax)、井上幸佑(B)
※基本3カ月ごと(2月,5月,8月,11月の最終日曜日)に開催予定。
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伊坂幸太郎 – バイバイ、ブラックバード

だいぶ伊坂さん作品も出版された文庫に追いついて来てしまったので、なかなか新しいのに出会えない。ハードカバーを入手すればいいのだけれど、どうも大きいのもって歩けないのでねぇ。この本もずいぶん前に手に入れてたけれど、読むまで(順番があったので)時間が経ってしまった。

「bye bye blackbird」といえばジャズを聴く人間なら一度は聴いたことあるであろう曲のタイトルだ、とすぐに連想してしまう(以前読んだ「ゴールデン スランバー」のタイトル見て、あ、ビートルズだ、と思ったように)。このタイトルがいつどういう形で物語に関わってでてくるのだろう(やはりゴールデンスバンバーもそういうシーンがあった)とか思いながら読み始めたけれど、そんなことさっさと忘れて没頭してしまい、あっという間に一気読み。すごく面白かった。短くはない物語であるのにすごく軽やかに読め、かといって単純な訳ではない。巻末の伊坂さんへのロングインタビューを読むとそれがなぜか分かる。

この本は6章だてとなっているけれど、実はこれらは短編として連作されたものだそうで、しかも「ゆうびん小説」という形(一つお話ができると、それを選ばれた50人の読者に送って読んでもらう、という形。ある日帰って来たらポストに伊坂さんの小説、しかもできたてほやほやの、があったらなんて素敵なんでしょう)であまり締め切りを切らずに書かれたものだそうで、伊坂さん自身も結果としては結構速いペースで書いたけれど、追われずにかけたので一話ごと納得ものになった、といっている。なるほど、だからこんなにぎゅっとした、短編なのに長編のような読後感があるのか。

主人公・星野一彦は自身の不祥事(これもなにかは詳しく語られない)のせいで繭美という粗暴で下品な大女に見張りにつかれ、やがてやってくるという<あるバス>(これについても曖昧にしか語られない、それがいい)に乗せられどこか知らないきっと戻ってこれないであろうところに連れて行かれることになり、嘆願して彼の5人の恋人たち(なんと5股だったわけで)に別れを告げに行く、というストーリーなのだけれど、一話ずつ完結して描かれているのだけれど、連作ということで、同じ話の形を踏襲している、というか同じ台詞から始まる、こういうちょっとしたことが面白い。でも話が重なっていくにつれて、前後にちょろっと関係があったりするのも楽しい。そしてキャラクターが楽しい。星野のよく考えたらむちゃくちゃなのに憎めないキャラもだし、繭美のむちゃくちゃすぎるのに筋が通ってる感じもだし、5人の恋人たちも、なにか普通とちょっと違う感じなのがいい。

お話だからふーんと読めるけれど、これ実際だったらこんな感じにはならずにもっとめちゃくちゃになりそうな感じがするのに、そうならないのは、伊坂さんの誘導か、それともじっさい繭美のような女がいるとそうなってしまうのか。完全にありえない話だけれど、なにかリアリティとむちゃくちゃなのに納得させられる感じもあって、伊坂作品の不思議さ、というか巧さにほとほと感心してしまう。そして始まりも終わりも曖昧な感じなのに、それが一番いい形になっている、この物語全体の構成、素晴らしいなあと思う。で、5話目のほろりとさせるところ、6話目になって微妙に変化する星野と繭美、そのあたりも堪らない。

編集者との間でこの企画が持ち上がったとき太宰治の未完の作「グッド・バイ」の続きを、みたいな話から着想したそうなので、太宰さんも読んでみる、かな?

PS
bye bye blackbird という歌は ”blackbird” が何を指すのかによって解釈が分かれるようだけれど、不幸とか不吉なことを指す暗喩といわれているそうで、それならば、こんなよくない状況に別れをつげて、もといたところに帰るよ、というような歌詞になるそう。もともとは女性視点で書かれた歌詞のようで、一説によると売春宿のようなところにいた女性を描いたものだとも言われる。とすると、この伊坂作品の場合は、逆になってるのかな。わざとかな?w

双葉文庫 2013

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江國香織 – 抱擁、あるいはライスには塩を

 
まったくもって意味がわからないタイトルだけれど、それは物語を読めばわかる。不思議な(少し世間とはずれた)一家の物語。4人の兄弟姉妹とその両親、叔父伯母、祖父祖母、同居する彼らの物語。ただ祖母はロシア人であり、この一家はみんな少し外国人の風貌をしている。こういうとそう変わってもいないけれど、彼らは古い大きな洋館に住み、一家の方針は”義務教育は家族が子どもに教育を受けさせる義務なのであり、だからこそ学校へはやらずに家庭内で教育を施す”。だから兄弟姉妹は家でのびのびと、嫌な世間知ることなく育っている。

そんな家庭であるのに、ある日父が子どもたちを小学校にやろうとするところから話は始まる。結局それは数ヶ月で終わるものになってしまうのだけれど、そこから仲良く同じように育っていた子どもたちが少しずつ分かれて行く。それは成長ともいえるのだけれど。そして、実はこの兄弟姉妹のうち2人は父が、母が違うということが明かされる。そこから家族一人一人の物語へ。場所や時を越えてばらばらに語られつつもやがて一つにまとまるある家族の大きな波乱に満ちた(そしてまことに不思議な)物語。

一般的に書いてしまうとなんてむちゃくちゃな家族なのか(いろんな家族の寄り集まりである)ということになってしまうのだけれど、そうはなってなくて、その普通なら異常ともとられてしまうような状況なのに、一家は安定して、ある秩序を守ってまとまっている。それがなぜなのか、なぜそういうことになるのか、それがじっくり語られる。

祖父祖母が作り上げた籠の中でしか生きられない(世間とはずれていて生きづらい)家族といえばそうなってしまうのだけれど、そこには家族とか愛人とか継母とか養子とかそういったたぐいのものをひっくるめて、愛といたわり、そして諦観ともいえるもので強く結びついた人々なんだということが徐々に語られて、読者にその大いなる物語が示されて行くのが、なんとも感動的。

いったい江國さんの各人物の姿、数々のエピソード、そういうものをどうやって生み出したのかがとても気になる。それほどにこの100年ぐらいに亘る物語が壮大すぎて。壮大なのに、全体の流れだけでなく、描かれる物語たちのディティールがはっきりしているし。どの人物にも感情移入してしまえるので、ぼーっと読んでいるといまがいつで誰の物語か迷ってしまいそう。

集英社文庫 2014

江國香織 – 雪だるまの雪子ちゃん


野生の雪だるま!

いきなりなんて発想をするんだろう、江國さんは。そしてその野生の雪だるまがいる世界には普通に人間もいて、人間がつくる”野生でない”雪だるまもある。おとぎ話のような、子どもが喜ぶようなお話だけれど、「もっと自由に生きなさい」と大人が言われてるような気もする。

ある豪雪の日に空から降って来た雪だるまの雪子ちゃん。百合子さんの物置小屋に住み着く。冷たいすきま風が絶え間なくはいる小屋が居心地いいという雪子ちゃん。夜更かしとバターが大好き、本を見るのも大好き、でも数字は苦手w 毎夜あちこち散歩をするし、小学校にも遊びにいって子どもたちと雪合戦もしたり。百合子さんたちと語らったりちょっとお酒のんだりトランプしたり。そして夏の間は休眠する、だから夏のことは全然しらない。

結局はいつか「とけちゃう」そうなのだけれど、それだからこそ(本人も知ってる)好奇心旺盛でちょこまか動く姿がかわいい。でも大人なのか子どもなのかわからない感じもしたり。

考え抜いて思いついたという感じではなくて、すっと通り過ぎようとした感覚をしっかり捕まえてそれを大きく膨らませる、それも瞬時に。そして想像豊かに奥行きある世界を産み出す、そんな江國さんの、ある意味江國さんぽい作品だなおもう。しかし字面すら面白いよね、”野生の雪だるま”って。

山本容子さんの銅版画も素敵。

新潮文庫 2013

辻仁成 – ダリア


久しぶりに辻さんの、鋭いというか、感覚が研ぎすまされたというか、少し冷たい、そう、悪徳の美のような印象をあたえる物語だった。ダリアと呼ばれる男がやってきたことからじわじわ変化して行く幸せだった家庭。あとがきで辻さんはある日みた窓からの光景が彼に何か大いなる啓示をあたえ、それを記録しておこうと記した小説だそう。だから、物語も脈絡がないわけではないけれど、辻さんが可能な限りその想像の翼を広げ、細めた眼の隙間から見える光景を克明に、しかも出来るだけ素早く記録した、というような感じがする。

だからとくに物語としての感想はない。あるのは与えられた印象。どうしようもない運命の誘惑に巻き込まれ、抗いながらもそれに甘んじてしまう感覚。ダメだという倫理観を破壊してしまう甘美な匂い。まさに悪徳の美。視覚的でも触覚的でもなく、それらを飛び越えて心や身体の隙間に入り込んでくる言葉で表し難い感覚・印象。それらが同時に、立体的に、四方からやってくる感じ。一瞬の中にある永遠の、そして繰り返される時間。

気をつけないと、溺れてしまう。

”人は生涯覚めながら見る夢の中にいる、とわたしは常々思っている。でも、その思っている私が誰か、そのことを、もう次の瞬間のわたしは、わすれつつある。”

新潮文庫 2012

川上弘美 – 古道具 中野商店


東京近郊の下町にあるちょっと不思議な雰囲気の古道具屋(決して骨董店でないところがミソ)でアルバイトする主人公ヒトミ。その不思議なお店とそこに集う人たちの物語。ダメ男感満載の店主中野さん。その姉で男っぽいマサヨさん。その恋人。そして私が気になる同じアルバイトのタケオ。波風のあまりたたない毎日がたんに流れて行くだけでなく、なにかちょっとしたものを含みながら流れて行く。

古道具屋さんという、最近ではもしかするとリサイクル店という名前に変わっていってしまってるお店の雰囲気、それがすごくいい。ちょっとくたびれているけれど、骨董というわけではなくて、ちゃんと使える味わいのあるものものたち。まったく意味のないものたち。それらが雑然と並んでいるという姿を想像しただけでなんだかほっこりしてしまう。

中野さんと”銀行”という隠語で呼ばれる恋人(だった)サキ子さん、マサヨさんと恋人の丸山、そして私とタケオ。じれったくも儚く、でもなんだか深い恋愛がじわじわとつづいて、付かず離れず、盛り上がりもせず、そんな展開がじれったくも愉快。川上さんの小説にしては湿度もひくく(カラッとはしてないけど)、ほんわかした感じでいいな。出てくる人の顔が想像できそうな、味があっていい。

新潮文庫 2008

東北再び(ジャズ喫茶編)

9月に再訪した東北ですが、被災地などを見回るほかにあちこち観光地(遠野がすごくよかったです。もう一度いきたい)とかお寺なんかもいったのですが、今回の目的の一つは岩手・一関にある名ジャズ喫茶ベイシーに行くことでした。CPのマスターがすごくお世話になったこともあるし、何よりも誰もが口を揃えていう「すごい音」を聴きたくて、です。なので、ベイシーもだけれど、今回の旅では3軒のジャズ喫茶を巡りました。

最初は3月にもいった気仙沼のヴァンガード。半年前と周辺はあまり変わってなかったように見えましたが、もしかするとちょっと建物が整理されていたかもしれません。ヴァンガードは同じたたずまい。今回もピアノソロやピアノトリオぐらいがかかっていて、前回と同じように「上品な音だなー」と思いました。津波での被災後に募金やその他でシステムを入れ替えたそう(いくつかの雑誌に記事あり)なのですが、スピーカーは自作だそうです。

このお店のおもしろい(?)ところは、こういうタイプのお店なのに近所の方がやってきてコーヒー飲んで行ったりするところです。普通ジャズ喫茶て選択肢に入りにくいような気がするのですが、このお店は普通にいろんな人がはいってきて喫茶を楽しんでいます。別にしーんと静かにしないと行けない訳でもないけど、割とみんな静かにしていて、時間が流れて行く、そんな感じです。マスターたちのお人柄もあるのかなーと思いました。たまにライブもやってるそうなので、いつかそんな機会ができたらなあと思います。

ヴァンガード
ヴァンガード
灰皿かわいい
灰皿かわいい

そして2軒目は仙台の繁華街のど真ん中にあるカウント。ビルの1Fの奥まったところにあるのですが、いつもそうなのかはわからないですが扉を開け放って営業されていて、そとまで大音量のジャズがだだ漏れw。いいんかなーと思ってしまうほどです。でも周りも気にしてないようなのでいいんでしょうねぇ。おおらかなり、仙台のひとびと!

ここはALTECが壁際にどーーーーーんと鎮座していて、ソファー席はほとんどスピーカ正面、そして奥にカウンター席があるという感じで、コーヒーもでればお酒もでるという典型的なジャズ喫茶でした。このときは(夜だった)カウンターに仕事帰りぽい方が3名ほどおられただけでソファーは誰もいなかったので、正面を占拠。何より音がでかい!浴びせかけるように鳴っているスピーカの正面にいると何もかも忘れてしまいそうな感じがします。ALTECの芯の太いずしんとくる音が気持ちいいです。ただ長時間いられるかというとそれは分かんないのですけど。レコード2面分ぐらい聴かせてもらいました。この日はサックスばっかりかかってたなあ。

仙台のカウント
仙台のカウント
常に扉は開けっ放し
常に扉は開けっ放し

 

そして3軒目は目的でもあった一関のベイシー。こんなところ(というと失礼ですね)にそんな店があるのかというほど一関はのんびりした街で、でも古い伝統ある街だそうなんですが、なんせのんびりしたところです。その街の中心、一関駅からほど近いところ(歩くと10分ほどか)にベイシーはあります。古い蔵を改装してつくったそうなのですが、入ると左がソファー席でJBLのスピーカが壁際に鎮座、右に店主で執筆家でもある菅原さんの定位置であるテーブル、カウンター、その奥にレコード棚とシステムがあります。

ここはやはり菅原さんがこだわり抜いた音ということもあってかじっくり音を聴きにくる人ばかりで、少なくない数の人が出入りしていました。ここも音がほんとに大きいです。でも(まあJBLが好きだということを抜きにしても)素晴らしくいい音でした。ぜんぜんうるさくなくて、音楽に没頭できる感じ。CPかーちゃんと行ったのもあったのでベイシー楽団のレコードをこれでもかーというぐらいかけてくれたのですが、ほんとライブを聴いているようというか目の前にバンドがいるんちゃうかと思うぐらいの音色、音質でした。そりゃ東日本一、いや日本一、いやいや世界一?といわれる所以です(JBLの社長やらが聴きにくるとか)。ここなら3日間ぐらいいれそうな気がしました。久しぶりにいい音で(システム的にではく、音楽的に、これが大事)聴くジャズは、それだけでいろいろなことが感じられたり、いろんなことを知ることができます。息づかいとか、スタジオやライブ会場の空気感とか、演奏者の考えてることまで透けて聞こえてきそうな感じです。こういう音で聴くことができれば、もっともっといろんなことを学べるのになあ。そのためのジャズ喫茶であり、レコードなんだ、と思いました。

途中から菅原さんのテーブルに呼んでもらって(僕はCPのDVD作ったときに見た写真でしか拝顔したことなかったのですが、それは30年前ぐらいの写真でしたが、面影は全然変わらずでした)いろいろCPマスターのこととか、レコードのこととか、音響のこととか、震災のこととかお話を聞かせてもらいました。3/11の震災のときはだいぶ建物自体が壊れたそうで、修復するのたいへんだったんだよーとおっしゃってました。

システムは変わらなくても、店主が変われば音は変わってしまうもの、それが店の音であり、店主の音。そういう意味のことをおっしゃってました。そりゃ当たり前なのですよね。毎日同じ場所で同じ音を、そして自分の好きな音であるように保ち続ける細かな努力が必要なことですから。そしてモノは変わらなくても少しずつ音は毎日変化してしまう。だから毎日よく聴いて微調整をする。その積み重ねが音となるわけです。それは楽器と演奏者にもいえることですが。だからモノが一緒で扱う人間で音は必ず変化してしまいます。なのでこの本当に素晴らしい音は菅原さんがいてこそなので、またチャンス作って浴びにいきたいです、はやいうちに。

しかし興奮したなぁ。旅程の都合上そんな長くいられなかったのがとても残念でした。

蔵を改装したという、一関ベイシー
蔵を改装したという、一関ベイシー
ほんと、ほれぼれする音です。
ほんと、ほれぼれする音です。

東北再び

 

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もうだいぶ前のことになってしまいましたが、9月の頭に3月につづいてまた東北をぐるっと巡ってきました。今回は前回と違って被災地を見て回る以外に別用もあったので、それと兼ねての旅行となりました。前回は震災から3年目にして初めてだったので、目の当たりにした状況というのがいったいいつから続いているものなのか、そして復興作業がどれぐらい進んだものなのかは全然わからなかったのですが、今回はそこから半年経ってどう変化したかを見ることができました。

今回は岩手は釜石から南三陸の海岸沿い、宮城は石巻からほぼ全域、福島はまた相馬から浪江町の手前までをうろうろしました。津波被害のあったところは松島などの観光地を除いては堤防工事がまず進められていました。前回は宮城の南の方で堤防が作られつつありましたが、それがどんどんのびて行ってるようでした。福島の方が工事は遅れているように見えました。岩手のリアス式海岸の入り江もまずは堤防や護岸工事を進めているという段階で、半年前からは変化はあるものの、まだまだ先は長いように見えました。また特に宅地にするような(自治体によっていろいろ町の再生計画が違うでしょうから一概には言えないけれど)ところは護岸+土地の嵩上げをするようで、近隣の山が切り崩されていっていて、いいようにいうと急ピッチで工事が進められているという感じですが、逆にいうとすごいペースで景観が破壊されていってるという印象を受けました。

陸前高田3月
陸前高田3月
陸前高田9月
陸前高田9月
南相馬小高地区3月
南相馬小高地区3月
南相馬小高地区9月
南相馬小高地区9月
宮城・福島県境(宮城方面)3月
宮城・福島県境(宮城方面)3月
宮城・福島県境(宮城方面)9月
宮城・福島県境(宮城方面)9月

とくに広い土地が浸水した陸前高田や本吉地区なんかでは大量の土砂が運び込まれ土地を十メートル以上嵩上げするらしいのですが、半年前にはその土砂はほとんどなかった状態でしたが、半年経って運び込まれた土砂はすごい量でした。が、全体から見るとそれはまだまだ足りてないという状況で、どのくらいで嵩上げのための十分な土砂が運び込まれ、整地され、宅地などになるのか、というのは想像もできず、まだまだ先は長いんだろうなと思わされました。仮設住宅の期限もあるだろうし、町の再生計画の是非もあるだろうし、そもそも住民の体力の持続力もそう長くはなく、いくらでも待てる訳ではないだろうし、、、、果たしてこの基本的な方針がよりよい選択なのかどうか、疑問を感じてしまうところもあります。でも、何か動かさねば何も進まない、ということなのだろうか、と、見てるだけの僕にはその程度しか言えないです。

またこの夏は非常に雨の災害が多かったので、こうやって近隣の山々を乱暴に削ったり、あちこちに積み上げたり、そんなことしていると別の災害を招かないか想像すると怖かったです。現にいっているときも台風がきていたり、仙台や石巻で冠水するほどの短期間の大雨が降ったりと降雨の被害が出ていました。そのあとには立て続けに台風もきましたし。今年はそういう年なのかもしれないですが、とにかく二次災害のようなことにならなければいいなと思います。

また放射線被害で立ち入りが制限されつづけている福島県ですが、3年経ってだいぶ規制範囲が狭くなって来ていて(放射線量は下がって来ているけども、という感じ)帰宅してもいいような、もしくはもうすぐ帰宅できるようになる、というような場所が増えているようで(南相馬)、直接地震や津波の被害のなかった家屋は手入れされていたり(でも住んではいない)、周りの家屋が津波で1階部分が破壊されているにも関わらず綺麗に修繕してある家があったり(でも近所では家屋が取り壊されたりもしてるところもあり)と、帰宅したいけれどあきらめた方/帰宅できることに望みを賭けている方のように、同じような場所でも分かれてきてるのだなと感じました。それでも特に浪江町や双葉町はそのままだし、南相馬でもまだ戻れない場所がたくさんあり、みんなが戻れないことには町が元に戻らないので住めない、ということなんじゃないかなと感じました。ここは津波の被害地域以上に深刻で、いろいろ頑張って作業されている人をたくさん見かけましたが、何がどこまで進んでいるのかはあまり分からなかったです。ただ、放射線被害が軽減された場所においてはがれき撤去が進んだり、除染もいちだんと進めているな、という風には見えました。

南相馬小高地区3月
南相馬小高地区3月
南相馬小高地区9月
南相馬小高地区9月

ただ、3月に行ったときと違って田畑が復活しているところもあったり、単に草がぼうぼうと生えているところもありでしたが、全体に緑色の景色だったので、被災地の荒涼たる姿という感じではなかったです。だからといって何かが変わったわけではないのでしょうが。でも草木というのはほっとするものなのですね。

中央では2020年のオリンピックのための工事も急ピッチで進んでいて、そのために東北復興のための人足が不足していたり、資材が高騰したりしているという話もききます。決してオリンピックを否定する訳ではないですが、せめておなじように注力できないものかと思います。そりゃオリンピックは国を挙げての事業で出場する選手にとっても、それをめざす若者たちにとっても、観戦するたくさんの人々にとっても夢や希望を与えることになるかとは思いますが、せめてそれはみんなが同じ平安な気持ちで臨むものにならないかなと思います。今の状況をみていると、穿った見方をしなくても東北が置き去りにされてるという感が否めません。結局金を持つもの集めたいものの経済活動の一環だ、としてしかとらえられないようなやり方でのオリンピック開催ならばはなはだ疑問が残ります。

これからまた厳しい冬がきて、やがて丸4年を迎えることになるのでしょうけど、被災してから4年経ってもぜんぜん状況が変わらないとはいったいなんなんだ?のようなことにならないようになればいいなと思います。被災地の方々が平安な気持ちになれる日が少しでも早く来るよう祈っています。少しでもと思ってチャリティーなんかもやりますが、それは微々たるものです。なので、とにかく志ある方はボランティアとはいわないから、単に東北に遊びに行ってください。景色はいいしご飯はうまい、空気もうまい、いいところです。僕らはそれぐらいのことしかできないのですから。

カッパ淵(岩手 遠野)
カッパ淵(岩手 遠野)

森の図書館(岩手 大槌町)
森の図書館(岩手 大槌町)

瑞巌寺(宮城 松島)
瑞巌寺(宮城 松島)

中尊寺(岩手 平泉)
中尊寺(岩手 平泉)