奥田英朗 – 町長選挙

奥田さんもだいぶ久しぶり。この本はシリーズにもなってるヘンテコ精神科医の伊良部一郎の第三弾。今回もヘンテコぶりを発揮して周囲を困らせているけれど、この人分かってやってんだかどうなんだか。

大手新聞会社のワンマンで人気野球チームのオーナーでもある男が恐れる闇「オーナー」、ITにより時代の寵児となった男が物忘れに頓着しない「アンポンマン」、歳をとっても若い姿でいようと努力しすぎる女優「カリスマ稼業」、そして表題作でもある孤島を二分する選挙に引き裂かれる男「町長選挙」の4つの短編。

伊良部の何を考えてるのか分からないところ、計算で動いてるのでもなさそうなのにたまにすごく的確な指摘をするところなんかが相変わらずとても面白い。4編のうち最初の2編についてはもう、あの人のことよね、とはっきりわかるモデルが現実にいる。実際描かれているように世間から(もっとも僕たちはメディアを通してしか知り得ないけど)見られてる/見えているけれど、それを本人視点から描いてるのが面白いし、もしかしたらこのお話したちのように悩んでるかもしれないし、話そのものも面白さもあるけれど、彼らはどう思ってるんだろうとか考えさせられて、奥田さんそこが狙いなのか?と深読みしてしまう。

表題作でもある「町長選挙」、ぱっと読むと非常に異常な感じを受ける(前時代的というか、関西の昔のあかん感じ)のだけれど、結局はそこに見える表面的なことではなくて、住民たちがほんとに思ってること、それをうまく描いてるなーと思う。そんなバカな!的な展開をするけれど、そこにはもう僕たちが忘れてしまったことや体験することなく過ぎ去ってしまった、村的ないいところ、そういうところを思い出したりかいま見せてくれたりする。

どの話もそうだけれど、話の主人公たちそのものよりも、人と人との関係によって社会は成り立ってるし、そういうのがないのは寂しいよ、と言われてるような気がする。

面白かった!

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