忘備録的に書いていく。
新井さんもはじめまして。お名前の読みは「みつる」じゃなくて「まん」だそう。芥川賞を受賞した表題の「尋ね人の時間」ともう一遍短編で「水母」。違う作品だが主人公が同じなので連作ということになるのだろうか。
「水母」は本当につかみどころのない感じというか、主人公神島の視点、揺れ動き定まらない気持ちが淡々と描かれる。セピア色でもモノクロームでもなく、色があるのに色の褪せたような世界観、不思議な文体が、不思議に気持ち悪くなく。
表題「尋ね人の時間」は同じく主人公でカメラマンの(ということがこの話で明かされる)神島とモデル志望の女子大生の不思議な関係。なぜかうまくいかなくなって別れた妻と、その間にうまれた自分を「ぼく」と呼ぶ娘・月子。いろいろな人生の背景の中、気づかないうちに自分を失ってしまっている神島。その姿がどこか読者に重なってきて、ふと自分のことに置き換えて考えてしまう。
あとがきにかえて、と添えられている文章「グリムと夢二とホックニー」の、子供のころによく無くしてしまう消しゴムの話の下りが好き。
文集文庫 1991
芥川賞受賞作(尋ね人の時間)