恩田さんはずいぶん前に「ライオンハート」を読んだことがあるだけで、とても久しぶりだったのだけれど、この「光の帝国」はすごく読みたかった本だった。以前誰かがとても面白いといっていたのを聞いたので。
ぼくは結構本の世界に没頭できるタイプで、読み始めるとすぐにその物語がまるで映像のように(実際に見えているわけではないけれど、現実世界とはちがう物語の世界が見えているかのような感じがする)感じられることがままある。そうなるともう文字を読んでいるという感覚はなくて、ページをめくった瞬間からその世界にいるような感じになってしまう。
この本は読み始めからいきなりその感じだった。架空のお話であまり細かいディテールがなくて、それでもある特定の雰囲気の世界観があるから、もともともっているイメージと重なりやすかったからかもしれない。
常野という場所から来たと言われる不思議な能力をもった一族のお話。能力は人によりいろいろあるが、遠くのことが見えたり、聞こえたり、早く移動できたり、先のことがわかったり、いわゆる超能力という類のものだけれど、SFぽい感じではなく、もうすこしおとぎ話の中ででてくるような少し変わった人たち。いろんな時代で彼らの能力が生かされたり、そのために迫害されたり、戦いになったり。でも彼らは基本的に穏やかであり、知的で、権力を持たず、群れず、常に在野にありつづけるという精神をもっている。
この本は10の短編から構成されているけれど、あとがきで恩田さん自身が書いているように、”いろんな人物を出したがために、いちいち違う話にせねばならなくなり、もっている札を全部出した”そうで、どの短編も違う顔をしていて面白い。どれもがその話からもっと先の広い世界へと広がっていきそうなものばかりで、いちいち続き読ませてほしいなと思ってしまう。でもそのバラバラの話をやがてうまくまとめているあたりはさすがだなあと。
ごく個人的な乾燥だけど、最後の短編で音楽にまつわるエピソードがいろいろでてくるけれど、かなり考えさせられてしまう内容だった。音楽のありようというか、自分の音楽への関わりようというか。うーん。恩田さんどんなことを知っているんだろう。
集英社文庫 2000