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2016-11

辻仁成 – 99才まで生きたあかんぼう

99akanbou

辻さん、面白い本を書いてくれたなーと思う。ある意味絵本ぽい(絵がそうあるわけじゃないけれど)物語。1ページごとに主人公がひとつずつ歳をとっていく。0才だったあかんぼうは、10才になり、20才になり、いろんな経験を積みながらやがて99才になる。

辻さんはどこから読んでもいい、最初からでも自分の年齢からでも、というようなことを書いているけど、まさにその通りでどこから読んでもいいし、それ相応の年齢の感じが伝わってくる。人生の経験の地層みたいなものが。でもやっぱり最初から読んだ方がいろいろシンパシー感じるかも。物語ぽくもあるけれど、いつの間にか自分の人生に重ね合わせてしまう。まあ、自分とは全然ちがうのだけれど。憧れも含まれてるし。

そんなに長くもないし、簡潔に描かれているけれど、その簡潔な分じわりじわりと主人公の人生の浮き沈み、喜怒哀楽が伝わってくる。大切なこと、幸せを感じるものごと、家族、友人、もしかすると僕たちの人生に必要なものはそんなに多くないのかもしれない。どう接するかであって。どう考えるかであって。

そういう点とは別だけど、2005年に描かれたこの物語が、今の世の中の様子と微妙にリンクしていて、その未来も描いてるもんだから、ちょっと考えてしまうところもあり。どうなるんだろう世の中は、この先。それでも人は生きていくのだけれど。

人間は死ぬまであかんぼうなのかも、とは、なるほどなあ。

2008 集英社文庫

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有川浩 – 空飛ぶ広報室

soratobu

有川さんの自衛隊もの。いわゆる自衛隊三部作とは違って、今回スポットがあたるのは航空自衛隊の広報。ブルーインパルスのパイロットになるはずだった主人公が不幸な事故からその資格をなくし、配属された先が広報という設定。自衛隊の広報って?ポスターとかたまに見るけど、あれかな?というぐらいの認識しかないぼくらに、有川さんはそれを優しく紐解いてくれる。結構分厚い物語だけれど、面白くて(さすが有川さんって感じ)わーっと読んでしまった。ラブコメ要素やメカ的なものが控えめなのもよくて、その分航空自衛隊や自衛隊というものが浮き彫りになる。

主人公・空井がミーハーな室長や一癖も二癖もある先輩たちに囲まれて、そしてテレビ局からの長期取材にはいっているヒロイン(?)リカの相手役をすることにもなり、航空自衛隊の広報のなんたるかを通して、自衛隊そのものについていろいろ考えていく。その視点が同時に読者の視点とも重なっていて、読みながら、へー、ほー、と思うことがたくさん。普段メディアを通して見ていると、派手なメカとかざっくりした組織とか政治の立場からの自衛隊、みたいな側面しか触れられないけれど、有川さんにこういう風に見せてもらうと、また違った、というか、考えたことなかったもっとリアルな側面を知ることができる。

ストーリーについては読んでね、ってことだけど、この本を通して一貫して有川さんは、ぼやっとした組織としての自衛隊ではなくて、そこには人間がいて、彼らも苦悩するし、いざとなると一番先頭に出て行くのは彼ら、人間そのものなのだ、ということを理解するべきだ、と言い続けてるように思う。

実は2011年の出版予定だったそうだけれど、折しも東日本の震災があり、宮城の松島基地が被災したこともあって、その物語も加えてからの出版となり、その追加された「あの日の松島」というエピソードもはいっている。被災後の松島ー東松島ー石巻あたりの海岸線を走ったことがあるだけに、そこにある基地がどういう被害をうけたのかが想像できて、怖くもなり、かなしくもなり、自衛隊の意義、立場、難しさを有川さんのこのエピソードで初めて知る。例えば被災地のガレキ片付けひとつとっても、テレビとかで見てる側はなんとも思わないけど、彼らは私有地には入ってはいけないというルールがあるそう。するとやれることにも制限ができる。やれる力はあって目の前にあるのにそれを行使できないという場面もあり、忸怩たる思いをすることもあるそう。

なんでも肯定・否定というわけじゃないけれど、何も知らないであれこれいうのは間違っているなと思うし、自衛隊という大きな組織で十把一絡げに考えるのじゃなく、そこにいるのは人間であり、彼らは相当な覚悟を持ってそこにいるのだということを、もっと感じて考える必要があると思わされた。

この本そのものがすごくいい広報になってるかもだなー。

2016 幻冬舎文庫

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黒毛の君

kamacoming

 

いま隣りで静かに眠る君へ

だれもいなくなった部屋に手のひらにのってやってきた君

真っ黒で、しっぽが途中でくにっと折れてた
ふわふわでやわらかくて、あったかくて
なでられるのは大好きだけど
しっぽを触られるのはすごくキライだった

おくびょうで、でも好奇心旺盛で、
すごくちいさくて、どこへでも紛れ込んでしまえた
にんぎょうとならぶと区別がつかなかった
どこにいったかわからなくなって何度探したことか

跳ねて、飛んで、いたずらしほうだい
しょうじは穴だらけ、ふすまもびりびり
マーキングもあちこちに
こむぎこまみれでまっしろにもなってた

 

やがてそれはそれはおおきくなって
りっぱなひげに、まんまるおめめ
毛並みはつやつや、つるつるしてて
でも、あいかわらずおくびょう
なにかあるとすぐに押入れに引っ込んでしまう
そのころから押入れがお気に入りだった

ひっこししたとき
どんどん荷物がなくなっていくことに怯えて
押入れからでてこなくなったことがあった
ひっぱりだしてみると
10円ハゲができてた

ひっこした先でも
まる3日テレビのうらから出てこなかった

玄関を開けてても
敷居の先へなかなかふみださない
ものおとがすると、一目散に部屋へダッシュ

だれかが君に会いに来ても
押入れにひっこんで
くらやみにまぎれてしまって
みんな口を揃えて「ほんとうにいるの?」と訊いた

 

そんなおくびょうな君が
いちどだけ、家出をしたことがあった

それはきっと家出のつもりなんかじゃなかったんだとおもう
あいている扉の隙間から
君はちょっとした冒険心とものすごい勇気をもって廊下へ出てみた
でもそのときにとなりのひとが顔を出したんだろう

あわてた君は
中へ逃げ込むのもわすれて一目散に廊下をはしった
気づくといったい自分がどこにいるのかわからない
そとは大きな音がするし
しらないひとがうろうろする
うろたえた君はどこか安全な場所をさがして消えてしまった

君の姿が見えないのに気づいてあわてて探しに出たけれど
君の姿はどこにもない
たてもののまわり
そのへんの垣根や車の下
近所のお庭や畑のすみっこ
となりのようちえん

もしかして、万が一
そんなことも頭をかすめたけど
しんじてあちこち探した

探し疲れてかえってきて
だれもいない部屋にはいったときの
あの、がらん、としたかんじ
君がいないだけでこんなにちがうものなの
空気がとまっているようだった

永遠ともおもえる2日間がすぎたとき
ぐうぜん、階下のよそのおうちのベランダの
プランターのかげでちぢこまる君を見つけた
がさがさにきたなくなってしまって
まるでよその子のように震えて
こわい思いをしたんだろう

それからの君はさらに用心深くなって
扉をあけても僕がそとにいないと
敷居をまたがなくなった

 

かすみそう
あじつけのり
かっぱえびせん
かつおぶし
またたび
シャワーから出るお湯

かさこそいうビニールシート
段ボール箱
きいろいライオンのゆびにんぎょう
くびのしたを掻いてもらうこと

そして何より雑誌の隙間からちょろちょろ出し入れするえんぴつが大好きだった

 

クラリネット
みかんの皮
ダイエットフード

かおの斜め上に手をかざすこと
掃除機
洗われること
抱かれること
ひなたぼっこ(黒いから?)

そして爪切りがにがてだった

 

ちいさいころ、わるいことをして
はらたちまぎれに投げ飛ばしても、すたっ、とたったりしてた
憎らしいやら可愛いやら

おおきくなってからは背中を、ばん、とたたいても
どこふく風のように平気なかおしてた

いつのころからか、電話をしているとよこから
「ねえねえ、どこのどいつとしゃべってんの?ねえねえ」と
きいてくるようになった
ふだんは呼んでも返事すらしないくせに
受話器をむけると「だれ?なに?」としゃべるようになった

なんにちか家をあけることがあって
心配してかえってきても
「あら。いたの?ふうん」
というくらい愛想のなさはずっと変わらなかった

でも寒くなるとふとんのうえにやってきて
足のあいだか、よこか、どこか掛け布団のうえで寝るもんだから
ぼくは寝返りうてなくて、けっこう困らされた

そのくせ君はそんなときにかぎって
すうすう気持ちよさそうに寝入ったり
ちいさくいびきをかいたり
あまつさえ寝言まで言ったりしてた

 

そうそう、そういえば君はじぶんの名前以外に
3つだけわかる言葉があったよね
「ウィ〜ンすんでー(掃除機をかける)」「おふとんあげるでー」
こう言うとどこにいてもそそくさと押入れへ

そして

「ごはんやでー」
こう言うとそそくさと押入れからでてきたもんだ

 

やがて首の周りとかに白い毛がちらほらしてきたころ
あたらしく白い仔がやってきた

ずっとひとりでいろいろのびのびやってきたのに
やってきた闖入者はやたらとはしりまわるし、うるさいし
自分にもましてわがまましほうだい

生まれつき遠慮がちな君は
すごくうっとおしくて
結局この仔とはあまり仲良くなれなかった

ぼくのわがままからつれてきたこの白い仔が
結局君にすごくいやな思いをさせてしまったのかもしれない
そして結果的に君からたくさんの時間を奪ってしまったのかもしれない
それをかんがえると
ほんとうにほんとうにすまない気持ちになる

 

ぼくたちでいう80さいぐらいになるころから
きゅうに君はげんきがなくなってきた
もしかしたらびょうきだったのかもしれない
それでも君はなにもいわずにたんたんと暮らしていた

すこしずつすこしずつ
うごきがおそくなって、ごはんもあんまりたべなくなって
なにをするのもしんどそう
おおきくこきゅうしていた

それでも白い仔につっかかられると
ぎゃーぎゃーいって歯向かっていた

そんなになっても、たまに君はあまえてやってきて
やれなでろ
やれ膝にのせろ
やれごはんだ
やれみずをいれろ
やれほっといてくれ
というのだった

 

そしてきのう

さいきんお気に入りのばしょ
ソファーと壁の間に、ちん、としていた君に
じゃあ、いってくるね、またねと言って
目やにをふいて、ちょちょっとなでてあげたら
すこしだけごろごろといってくれたのが
ぼくがみた君のさいごの凛々しい姿になった

 

くるしかったのかもしれない
もうだめだとかんじたのかもしれない

プライドの高い君はさいごに
さよならのマーキングをして
じぶんの居場所
押入れの奥まで這っていって
しずかによこになった
まるでぶざまな姿をみせたくないとでもいうように

 

もっともっともっとはなしたかった
もっともっともっとなでてあげたかった
もっともっともっともっともっと
いっしょにいたかった

 

どうしてぼくたちはことばをかわせないんだろう
はなせたなら、君がなにをおもってるのかいっぱいきけたのに

でも
君とは
はなせなくても
おたがいせなかむきになってても
ずっとつながっていた気がする

そうおもってる

 

じぶんのかぞくのつぎに
いちばんながくいっしょにくらした
かまたま

へんな名前つけちゃったけど
きにいってくれてたらうれしい
君がいたからぼくはさみしくなかったし
君がいたからいまのぼくがいる

感謝しています

ありがと、かま
またね。

 

kamaandtake

かまたま
2000.4.4 – 2016.11.15

 

2016.11.16

高橋克彦 – 写楽殺人事件

sharaku

いまだもって謎が多いといわれる写楽。ある浮世絵研究の組織にいる主人公・津田。ある古書市で入手した図覧に不思議な絵をみつける。それは写楽が近松昌栄と名を変えて描いたとされる作品だった。

そこから津田は調査を始める。青森や秋田、彼の痕跡をつぶさにさがす。そうしてある結論にたどりついた。それは大きな歴史の中で様々な権力に翻弄された人物の姿だった。それを研究室に持ち帰ると、教授が発表することに。渋る津田だったが、でもそのほうがより世間に認めらるということで引き下がったのだったが、、、相次いで教授もその他の写楽研究の第一人者といわれる人物が謎の死を遂げる。。。

あまり浮世絵のことはしらないけれど、これを読むといろいろ興味が湧いてくる。昔のものや芸に興味をもつタイミングなのかもしれない。ミステリー作品としてすごくよくできているなともおもうけど、それより歴史を紐解いていくあたりがとても面白かった。江戸時代ごろの世間の様子。そこに生きていいた人たちの楽しみであった浮世絵たちがどういうふうに生み出され、楽しまれていたのか。その陰で絵師たちがどう生きていたのか。そんな部分にとても魅力を感じた。

第29回江戸川乱歩賞受賞作品

講談社文庫 1984

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池井戸潤 – 不祥事

fushoji

花咲舞 – 通称「狂咲」が大活躍する銀行もの。池井戸さんらしい作品といえるのかな。人事の圧力でエリート路線から事務部の調査役になった相馬のもとに彼女はやってくる。お墨付きの問題児だが仕事はできる。二人の仕事は臨店、その名の通り各支店をまわって主に窓口などの業務の改善を指導する仕事。

普段利用しているとそんなことがあるとは思えないけれど、銀行業務にはたびたびミスがあるらしい。記載の間違いから、入金や出金のミスなどなどだそう。そういうミスが多い店舗を順に巡って指導していくわけだが、そのミスがでるのにも原因が。それはコスト削減を名目にした主力であるはずのベテランの首切りであったり、いじめであったり、はたまた行員の不正であったり。そういうミスの陰に潜む銀行や行員の実態をあばいていく二人。ただ花咲はかなり強引なやり方をするので、相馬はたまったものではないのだが。

利権と派閥によってがんじがらめになっているメガバンクという組織の中では、働いている人間はコマにしかすぎず、それは権力の前にはなんの力もない。しかしそういった人間には彼らの家族があり、生活があり、幸せがある。そして銀行は一部の人間の欲のために存在するのではなく、よりよい社会のために存在する。そう大きな声でいう花咲の一挙一動に読んでいる側は手に汗を握り、爽快感を感じ、ほっとすると同時に、得体の知れない大きな力に覆われたこの国の社会にも、まだ救われる部分があるのじゃないか、もっとみんなで手をとりあって頑張って、未来に希望をもつことのできr社会に変われるんじゃないか、というような期待、願いが湧いてくる。

短編になってて読みやすいのもあるけど、とってもいい作品だと思った。紋切り型の時代劇のようにわかりやすい作品ではあるけれど、複雑に心を乱され考えさせられる作品もいいけど、こういう話を読むと心が和む。これこそ必要なことなのかも。

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