池井戸潤 – 不祥事

fushoji

花咲舞 – 通称「狂咲」が大活躍する銀行もの。池井戸さんらしい作品といえるのかな。人事の圧力でエリート路線から事務部の調査役になった相馬のもとに彼女はやってくる。お墨付きの問題児だが仕事はできる。二人の仕事は臨店、その名の通り各支店をまわって主に窓口などの業務の改善を指導する仕事。

普段利用しているとそんなことがあるとは思えないけれど、銀行業務にはたびたびミスがあるらしい。記載の間違いから、入金や出金のミスなどなどだそう。そういうミスが多い店舗を順に巡って指導していくわけだが、そのミスがでるのにも原因が。それはコスト削減を名目にした主力であるはずのベテランの首切りであったり、いじめであったり、はたまた行員の不正であったり。そういうミスの陰に潜む銀行や行員の実態をあばいていく二人。ただ花咲はかなり強引なやり方をするので、相馬はたまったものではないのだが。

利権と派閥によってがんじがらめになっているメガバンクという組織の中では、働いている人間はコマにしかすぎず、それは権力の前にはなんの力もない。しかしそういった人間には彼らの家族があり、生活があり、幸せがある。そして銀行は一部の人間の欲のために存在するのではなく、よりよい社会のために存在する。そう大きな声でいう花咲の一挙一動に読んでいる側は手に汗を握り、爽快感を感じ、ほっとすると同時に、得体の知れない大きな力に覆われたこの国の社会にも、まだ救われる部分があるのじゃないか、もっとみんなで手をとりあって頑張って、未来に希望をもつことのできr社会に変われるんじゃないか、というような期待、願いが湧いてくる。

短編になってて読みやすいのもあるけど、とってもいい作品だと思った。紋切り型の時代劇のようにわかりやすい作品ではあるけれど、複雑に心を乱され考えさせられる作品もいいけど、こういう話を読むと心が和む。これこそ必要なことなのかも。

講談社文庫 2011

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