有川浩 – 空飛ぶ広報室

soratobu

有川さんの自衛隊もの。いわゆる自衛隊三部作とは違って、今回スポットがあたるのは航空自衛隊の広報。ブルーインパルスのパイロットになるはずだった主人公が不幸な事故からその資格をなくし、配属された先が広報という設定。自衛隊の広報って?ポスターとかたまに見るけど、あれかな?というぐらいの認識しかないぼくらに、有川さんはそれを優しく紐解いてくれる。結構分厚い物語だけれど、面白くて(さすが有川さんって感じ)わーっと読んでしまった。ラブコメ要素やメカ的なものが控えめなのもよくて、その分航空自衛隊や自衛隊というものが浮き彫りになる。

主人公・空井がミーハーな室長や一癖も二癖もある先輩たちに囲まれて、そしてテレビ局からの長期取材にはいっているヒロイン(?)リカの相手役をすることにもなり、航空自衛隊の広報のなんたるかを通して、自衛隊そのものについていろいろ考えていく。その視点が同時に読者の視点とも重なっていて、読みながら、へー、ほー、と思うことがたくさん。普段メディアを通して見ていると、派手なメカとかざっくりした組織とか政治の立場からの自衛隊、みたいな側面しか触れられないけれど、有川さんにこういう風に見せてもらうと、また違った、というか、考えたことなかったもっとリアルな側面を知ることができる。

ストーリーについては読んでね、ってことだけど、この本を通して一貫して有川さんは、ぼやっとした組織としての自衛隊ではなくて、そこには人間がいて、彼らも苦悩するし、いざとなると一番先頭に出て行くのは彼ら、人間そのものなのだ、ということを理解するべきだ、と言い続けてるように思う。

実は2011年の出版予定だったそうだけれど、折しも東日本の震災があり、宮城の松島基地が被災したこともあって、その物語も加えてからの出版となり、その追加された「あの日の松島」というエピソードもはいっている。被災後の松島ー東松島ー石巻あたりの海岸線を走ったことがあるだけに、そこにある基地がどういう被害をうけたのかが想像できて、怖くもなり、かなしくもなり、自衛隊の意義、立場、難しさを有川さんのこのエピソードで初めて知る。例えば被災地のガレキ片付けひとつとっても、テレビとかで見てる側はなんとも思わないけど、彼らは私有地には入ってはいけないというルールがあるそう。するとやれることにも制限ができる。やれる力はあって目の前にあるのにそれを行使できないという場面もあり、忸怩たる思いをすることもあるそう。

なんでも肯定・否定というわけじゃないけれど、何も知らないであれこれいうのは間違っているなと思うし、自衛隊という大きな組織で十把一絡げに考えるのじゃなく、そこにいるのは人間であり、彼らは相当な覚悟を持ってそこにいるのだということを、もっと感じて考える必要があると思わされた。

この本そのものがすごくいい広報になってるかもだなー。

2016 幻冬舎文庫

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