浅田次郎 – 闇の花道

大正ロマンあふれる時代。明治の維新は遠い昔になり、まだ東京を大震災が襲うすこし前。街や人々は新しい時代に心躍らせていたが、まだまだ江戸の昔を大切にしていた者たちもいた。それは盗人稼業においても。

時は変わっていまの時代。留置所の隅にうずくまる老人。彼は夜な夜な同部屋の留置人たちに昔話をする。それも昔の盗人が使ったという声音・闇がたりという方法で。知る人ぞ知るこの御仁こそ、その大正の時代に名を馳せた目安一家の小僧で、天切りという大技を継いだ盗人・松蔵だった。彼ら一家が狙うのは盗られても誰も困らない天下のお宝。そして貧しい人には手を差し伸べる。義理と人情、そして何より粋であることを大切にした、そんな人々の物語。

とかく、いまの若い者は、なんて言葉がよく出るけれど、いまも昔もそれはさほど変わっていない。しかしその中でもすこしずつ変化はしていっている。今のご時世に義理や人情、はたまた粋、なんてことを信条にしている人間がどれほどいるものか。昔は本当にそういうものを大事にしている人たちがいて(と信じたい)、彼らの話を聞き、自分のいまを見つめ直す。話は昔話だから古いけれど、そこに含まれる真理や人の情は色褪せるものじゃない。

何巻か続くシリーズ物。「天切り松 闇がたり」シリーズ。一巻目となるこの作品では天切り松こと松蔵が目安の親分に拾われるところから、小僧時代のお話が主。博打好きの父親が借金のかたにと姉を置屋に、そして弟・松蔵を奉公にだすところから始まる。一家の姉御おこんが意地から同じ人物から同じものを盗り、それが人生の中での大きな恋になるお話「槍の小輔」がかなり素敵な話。そして生き別れた姉が吉原の花魁になって再開、そして別れる話などなど。義理人情なんていま流行らないというか二の次にされるようなことだけに、こう話にしてじっくり聞かされると、今はなんなんだろうとか思ってしまう。ロマンとか今ないもんね。そして粋。ほんといまは無粋な事ばかり、嫌になる。

こんな話をみせてくれる浅田さん、いいなあ。続きも楽しみ。

集英社文庫 2002

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