西加奈子 – 漁港の肉子ちゃん

西さんの本。映画になるかなんからしいけど、この本を手に取ったときはそんなことは全く知らずに、単に高校の後輩にあたる人で興味あるというのと、やっぱりなんといってもこのタイトルに惹かれて。港をバックにガハハハと豪快に笑う太った大阪のオバはん的な(いい意味で)想像をしてたら、割と近くてびっくりした。

男運がなく、悪い男に引っかかっては借金を背負い、街を追われ、それを返すのに頑張って働いて、でもまた悪い男に引っかかっては、を繰り返してきたらしい肉子ちゃん。本名は菊子。流れ流れてたどり着いた北の(イメージは東北あたり)漁港にある焼き肉屋さん(いくら魚が新鮮でも漁師さんたちも飽きて肉が食いたい時もある!という理屈が面白い)で働くことになったとき、そのふくよかすぎる体型が”肉の神様に見えた”という理由でそんな通り名がついた。肉子ちゃんは娘のキクちゃん(喜久子)と2人でその焼き肉屋「うをがし」の裏にある家で住み込みをしている。

何よりも太りすぎだし、持ち物も服装もダサいし、髪型にいたってはいつの時代の?て感じだし、アホだし、漢字を分解して説明するへんな癖があるし、デリカシーもへちまもない肉子ちゃんだけれど、その笑顔のせいかまっすぐすぎるキャラのせいか、彼女の周りには笑顔が溢れる。それに比べてキクちゃんは小学校のクラスの女子の諍いや、他所から来たカメラマンへの憧れや、自分があまりにも肉子ちゃんに似ていない(キクちゃんはすごく痩せてて可愛い)ことや、いろいろいろいろありすぎる毎日をそんな肉子ちゃんには相談できず、ずっといい子で我慢しているジレンマに悩んでいる。

そんな母娘の日常の物語。ほんと大きなドラマや展開があったりするわけでもなく、まるで例えばアルゼンチン映画のようにただただ時間がしずしずと流れていくだけなのに、とても面白く読める。それはこの漁港の街にいるひとびと、焼き肉屋さん「うをがし」に集まるひとびと、学校の子供達、彼らが、そして彼らの生き方が何でもなくてそれでいてとても魅力的だからだと思う。みんな正直で、時には喧嘩したり、仲良くしたり、いろいろあっても小さな街の中でうまく共存して、同じ時間を、同じ空気を共有して生きている。それがとても愛おしい。

ちょっと逸れるけど最近、前々からいつかは見たいなと思ってた寅さん「男はつらいよ」シリーズを見てるんだけど、寅さんも肉子ちゃんと共通するところがある。やたら何でも間に受けたり、やたら世話焼くわりには上手くできなかったり。見ていてイライラする(実際自分の家族に寅さんいたらもう大変だろうなw)けれど、何故か憎めない、愛してしまうキャラクター。そんなところがこの本を読んでてダブった。

読みながら、描かれる街(もちろんモデルとなったところはあるけれど、架空の街の設定)に何故かシンパシー感じるなあと少し思ってたのだけれど、この物語が生まれるきっかけになったのは気仙沼の漁港側にあった焼肉屋さんだったそう。西さんは震災前にたまたま訪れてこの物語を紡いだそうだけれど、上梓後震災があって津波がきてその焼肉屋さんも流されてなくなったそう(お店は再開したらしい)。その時西さんは出版を悩んだそう。震災後にも訪れたそう。僕もまあまあ同じ景色を見たから(震災前は知らない)相当ショックだったと思う。そんなこともあって物語以上にどこかこの街に、人々に気持ちを寄せてしまうのかもしれない。

もう僕の中には肉子ちゃんもキクちゃんも、サッサンも、ゼンジさんも、マリアちゃんも、マキさんも、二宮くんも、出てくるひとみんなみんなが形作られてて、それぞれ生きて喋って遊んで飲み食いしてる。だからそれを壊したくないから、映画は見ない。

とてもいいお話だったし、西さんを改めてちゃんと読みたくなった。もっとたくさん知りたい。

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