武満徹対談選 (小沼純一 選)

たぶん世界で一番しられている日本人作曲家(現代音楽作曲家)で、日本では知名度の低い武満徹氏の対談集。ある人がある人に勧めていたのを見て、これは読んでみたいと思って自分でも入手してみた本。武満さんの対談集はいくつも出版されているそうだが、そこから小沼氏が選んで集めた選集。

いくつもの対談やテレビの収録(!)から選び集めた対談がぜんぶで13編。黒柳徹子さんから、名だたる音楽家、伝統芸能の担い手、音楽以外の芸術家の方々などなど、錚々たる面々との対談は、武満徹という人物像や彼の音楽の匂いや形をみせてくれるだけでなく、彼の考え方、思っていること、音楽や社会のあるべき姿(対談当時の、ということは鑑みる必要あるけれど)をいろいろ教えてくれる。もう読んでしばらく経ったので内容をちゃんと憶えてはないけれど、すごく考えさせられる言葉が多かった。何より、70年代にすでに現代社会のある側面 – 物理的距離は障害ではなくなりネットワークによって情報の拡散/共有が盛んになり、グローバル化がすすむ。日本の音楽はある閉ざされた範囲の中で洗練されて進化してきたが、もっとグローバル化が必要なのではないか、などなど。すごく面白い。

特にいいなと思ったのは、デザイナーの杉浦康平氏との世界の音楽の話、琵琶師の辻靖剛氏との対談、そして谷川俊太郎(彼については作品以外しらないけれど、自分のこと「オレ」っていうのは意外だった)とのことばについての話、寺山修司とのジャズについての対談。まぁ13編どれも面白いのだけれど、とくにこれらが面白かった。知らないこともそうだけれど、見知っていることへの違う切り口というのを提示してくれるのがいいのかも。

武満さんがどういう風にして音楽家になったのかも知らなかったし、彼の作品も実はぜんぜん知らない。けれどもこの対談を読んでとても作品に触れたくなった。日本人というアイデンティティをもちつつ西洋音楽をやるというある種アウェイな矛盾したところ、対談で予期していたところの現代社会のグローバル化の嵐のなかでの日本文化の価値、位置づけ、ありようなどなど、漠然と考えていることをこんなにも昔にもっともっと突き詰めて悩んで考えていた人がいたということだけで、驚きと畏怖の念を抱かざるを得ず、また自分の至らなさを思い知る、そんな本だった。なので出会えてうれしい。

ちくま学芸文庫 2008