ある日気づくと、頭の上に猿がのっている。しかもそれは自分にしか見えないらしい・・・・
そんな奇妙な設定で始まる老人のお話。でもその猿の奇妙な謎よりも、この物語を読んでいると、なにかその物語の中に自分が混ざってしまっているような錯覚に陥ってしまう。それは著者の視点がすごく物語のなかの人物たちの目線と同じ高さにあるからなんだと思う。するとより物語がリアル、というかそんな日常に自分がいるかのように思えてきて、何でもない人達の何でもない暮らし(といっても何かはあるのだが)や、その人達の小さな喜びやあがきが身近に、いとおしく思えてくる。
巧みな描写だとか選びぬかれた言葉たちを使って、という文章じゃないけれど、あまりにも視線がすばらしくいい意味で普通で、登場人物たちが生き生き、というか、「生きている」感じがある。
あと年老いた人たちの悲哀が淡々と、でもしっかり描かれ、人間誰しも不可避な老いや、それに対する気持ち、あがき、あきらめ、社会との関係、なんかを考えさせられる。若い人は親のことを想い、年老いたひとは自分のこの先を考えさせられる、そんな物語のように思える。なんでもなく流れていく日時、でもそれは確実に過ぎ去っていき、戻らない時間。老い、別れ、それは誰も逃げられない。だからこそみんなあがいて生きようとするのだ。
短いけれど、すごいいいお話だった。池永さんの他の本も読みたい。第11回小説すばる新人賞受賞作品
集英社文庫 2003