田中啓文 – こなもん屋うま子 大阪グルメ総選挙

こなもん屋うま子シリーズの2作目。うま子の大阪のおばちゃんキャラも面白いし、大阪のこなもん文化をいやというほど味わえるこのシリーズ、やっぱり面白い。そしてためになる(?)。前作では一話ずつ物語の主人公が違う設定だったけれど、今回は話ごとに違う主人公がでてくるのは同じだけれど、一冊通して大阪市長が出てくるという設定で、最近いろいろ物議をかもした大阪市政について、茶化しているけれど、核心を突いたつっこみもあってそれもまた楽しい。公共文化施設の閉鎖、学内での国歌斉唱などなど。

前作もそうだったけれど、やっぱり”こなもん”というのはいいなぁ。読んでるだけでよだれがでてくる。ホルモン焼うどん(これも最近までなかったんじゃないかなあ。美味しそうなホルモンの描写がたまらん)、ナポリタン(これってちょっとまえに名前がダメになるかもって物議醸したよなぁ、パスタじゃなくてスパゲッティー、ね!)、ホットケーキ(パンケーキもおいしいけど、やっぱ熱々のホットケーキよね。なぜ2段にするんだろw)、チヂミ(韓国料理にいくと必ず食べちゃう)、そして串カツ。関西近辺に住む人間なら字面みただけでこれらの絵がでてきて、口によだれがたまるよねぇ(お昼前にこういう文章書いてると尚更)。おいしいもの満載。

大阪市長の悩みを食べ物を通してバッサバッサと斬りまくる、うま子が今回も痛快。怖いおばちゃんだったり、のんきなおばちゃんだったり、多種多様に変化するうま子。今回は笑うセール○マンぽくもなったりして面白い。ほんま、街のどこかにかならずいる大阪のおばちゃんキャラの集大成のようで、面白くて、親近感がわく。でも家にこんなんおったら大変だけどw。

そして相変わらずダジャレの宝庫だけど、「関門海峡河豚儀式」にはわろた、笑ろたw

実業之日本社文庫 2014

Amazonで詳細見る
楽天ブックスで詳細を見る

田中啓文 – 猿猴


「大きな猿が世に生まれだして人類を食らうだろう」という聖徳太子の予言から話は広がっていく。雪山で遭難した主人公奈美江が助かったのは偶然転がり込んだ土仏が並んだ奇妙な奇妙な洞窟のおかげだった。その失敗を拭おうをもう一度雪山にチャレンジした奈美江だったがやはり遭難してしまい、同じ洞窟にまたたどり着き、猿人のようなものに襲われる。まるで猿のような子供、猿の仮面をかぶった男たち、、、猿にまつわる奇妙な物事が奈美江をとりまいていく。

物語が進んで、いろんな謎が謎を呼んでいくなかで、「このままギャグ落ちだったらどうしよう」とか思ってしまったけれど、すごくシリアスな展開のまま最後まで怒涛のように進んで一気読みしてしまった。エピローグもいい感じ。なんか映画・猿の惑星を思い起こさせる(物語中にも何度か猿の惑星でてきた)。

聖徳太子、豊臣秀吉、出雲の国譲りの神話、中国の秘境などなど、田中さん、また今回もいろんな世界を見せて、教えてくれる。しかしこのたくさんの知識をどっからもってきて詰め込んでるんだろう。ほんとに中国いったんかなー。まるで見てきたかのように文章から絵が浮かんでくる。すごい。田中さんが見せてくれるいろんなものからまた別の興味が湧いたり、知らなかったことを知りたいと思ったり。今回も日本の神話の下りや(自分の国の創世の物語をしらないのは日本人ぐらいではないか、という指摘もあった、その通りかも)、聖徳太子あたりの時代の話なんかはとても興味惹かれる。知らずにいままできたけれど、もっと色々知ってみたい。大いなる秘密というか、神秘的なもの、でもそこにも人間がいただろうし、もっと自然は過酷だっただろうし、そういうものを知らしてめてくれる昔話をもっと知りたいなと思った。

あー、面白かった。

講談社文庫 2012 書き下ろし

猿猴 (講談社文庫)
楽天ブックスで詳細を見る

田中啓文 – 鍋奉行犯科帳


まずタイトルが面白いじゃないですか!犯科帳といえば「鬼平犯科帳」ってのをすぐ思いついてしまうけど、今回は奉行なのか、なるほど、、、でも鍋ってw 解説で有栖川さんも書いてるけれど、ほんとタイトル思いついて書き始めたんじゃないかと思ってしまうw

大坂(大阪)の西町奉行所に赴任して来た大邉久右衛門は巨漢の強面であるが、実は大食漢で美食家。なので付いたあだ名は「大鍋食う衛門」。食うこと以外にはまったく興味がなく仕事は滞る一方。奉行所の関係者は迷惑被っててんてこまい。しかし、そんな型破りの奉行が食がらみになると突然ひらめいたり。まったく謎な漢である。大阪は食べることには目がない。田中さんの途方もない蘊蓄とともに江戸時代の大坂の町や人々、食など、魅力的な大坂をみせてくれる。

時代背景や考証などもちゃんとしていて(当然か)ほんと当時の大坂が目に見えるよう。解説にもあるように侍ものの小説というとほとんどが江戸ものになってしまうので、こういう大坂ものがあると、親近感がわくというか、知ってる町並みがでてきてとても楽しい。ああ、いま東横川沿いだなーとか淀屋橋あたりかな、なんて。しかもいつものようにうまい言葉遊びというか、食と言葉の関係づけから生まれる物語がどれも楽しい。しかもただの侍ものではなくて謎解きもあって、いや、この短いなかにこんなけたくさんよく詰め込んだなーという感じ。すばらしい。というか面白い!

これシリーズ化してほしいなぁ。ふぐ食べたいなぁw
って、あ、あるのか。ほかも読もう!

集英社文庫 2012

田中啓文 – こなもん屋うま子


この本はほんとにおもしろい!おもしろい!おもしろい!しかも大阪満開だし。大阪のいわゆる”こなもん”文化(こなもん=粉もの=小麦粉などでつくる料理すわなちお好み焼きやらたこ焼きやらうどんやら)とか”大阪のおばはん”という生態を知ってた方がよりおもしろく読める。いちいちうなずけることが多かったのですごく楽しく読めた。

大阪のどこかにある馬子(うまこ)というおばはんがやってる”こなもん全般”のお店、馬子屋。何か悩みをもつ人が偶然行き着くそのお店はこなもん料理ならなんでもあるというお店で、たこ焼きもお好み焼きもうどんも何もかもが絶品という不思議なお店。人間観察が趣味の男、東京から都落ちしてきた元アイドル、うどんが嫌いな上方の噺家、プロジェクトに行き詰まった男などなどいろんな人間がこの馬子屋でこなもんにはまっているうちに騒動に巻き込まれ、物語が急展開し、馬子の手腕でアクロバット的な解決を見る!?

7編の短編から構成されているけれど、どれもほんと面白くて、そして描かれている食べ物がこれまたどれもおいしそうで空腹のときに読むと腹立つぐらい(笑)。食べ物にももちろん詳しい田中さんだけれど、ちょっとした歴史ものとか、ヒーローとか怪獣とか落語とかそういう田中さんが別で手がけているものの片鱗がちょろちょろ出てきたりしてそれがまた物語をより立体的にしているように思う。全体にはすごく軽くて読みやすいのだけれど、実は細かいとこがよく描かれてると思う。

僕はもともと大阪の人間なのでこなもんは大好き。うどん、お好み焼き、焼きそば、たこ焼き、焼うどん(これ出てこなかったなぁ)あたりが好きだけれど、やっぱり一番はうどん。そしてうどんの中でも一番に好きなのは讃岐うどん。本編では大阪のうどんと比較して「四国ではうどんにしょう油かけて食うてる?アホちゃうか。出汁作らんでええねんやったら、うどん屋はすぐに蔵が建つわ」と馬子に一蹴されてしまっているけれど、いやいやこなもんというのなら讃岐うどんのほうがよりこなもんだと思うんだなー。一般に讃岐うどんといったら”しこしこで、のどごしつるつるのエッジの立った麺”とか”いりこを主とした濃い出汁の味わい”というとこがクローズアップされがちだけれど(もちろんどっちも好き)、僕が思う讃岐うどんの魅力であり、よりこなもんぽいと思わしめるのは、讃岐うどんの小麦粉の強烈な匂い、なのだ。あの掘建て小屋のようなうどんやさんに近づいたときに漂ってくるうどんを茹でる匂い、そして食べたときに口腔内に広がる小麦粉の香しい匂いといったら。。。といったら、くぅー、たまらんのー!大阪のうどんも好きだけど、匂ってくるのは出汁の香りだもんなあ。

話がもううどんのほうにしか行かないけど(笑)、「おうどんのリュウ」でも書かれているように『最近増えた「こだわりのうどん専門店」はぼくの性に合わない。ぐずぐずしていると、ゆがきたてを味わってほしいからすぐに食べろ、とか、生しょう油はこうかけろ、とか、出汁はこういう風に飲め、とかうるさいことを言われるし(後略)』ような店がとくに都会で増えてきたのもアホらしくて情けなくなる。好きに食べたらええのになぁ、うどんなんて、庶民のくいもんやん。ちゃんと仕事をしてるお店は必ずこだわりあるはず、口に出さないだけで。口に出すと言うことは逆にそうでもいわんと自信がないんか?と勘ぐってしまう。ラーメン店がその最たるものよね。

で、都会でよくある讃岐うどんを看板にするようなお店だけど、作り立てのうどんを食わすセルフの店と謳ってるのに、やたらレジ遅くて並ばせたり(のびてまうがな)、ネギやショウガを自分で入れられなかったり(セルフちゃうやん)、しょう油うどんのほうがかけうどんより高かったり(本来なら出汁の方が手間かかって高価になるはずなのに。同じ値段にせー、同じに!)、ひどい店になるとショウガおいてない店もある。匂いの強い麺とそれに負けないようにちょっとエグイ出汁(もしかしたら順番は逆なのかもしれないが)でつくるものなのに、そんなん七味で食べれるかいな。ショウガとネギが揃って全体のバランスが取れるのに!

あ、文句ばっかり書いちゃった。。。。

なんせうどんが好きなんです。とくに讃岐うどんが。なんで、解説で日本コナモン協会会長(そんなんあるんや、入りたい‥‥)の熊谷真菜さんがこなもん文化の根底にある出汁についてすごく語ってらっしゃるけれど(それは無論すごく大事)、うどんに関してだけ言うとやっぱりこなもんというとぼくは讃岐うどんのほうに軍配があがるのです。

そういや、昨日も今日も立ち食いうどんたべたな。。。余談でした。。。

いやーほんとに面白かった。田中さんごちそうさまです。

実業之日本社文庫 2013

田中啓文 – 禍記


「落下する緑」などの音楽ものとか、笑酔亭梅寿謎解噺のシリーズとか「蹴りたい田中」や「銀河帝国の弘法も筆の誤り」のような作品には触れてきたけれど、いままで田中さんの気色悪い系は避けていた。だって気色悪そうだから。昔からスプラッタ系の映画とかも不得意なので、もう文章読むだけでおえっとなったらどうしようとか思ってこのあたりの作品は読んでいなかったのだけれど、魔がさしたのかふと手にした本。

「禍記(マガツフミ)」といわれる謎の古史古伝には闇に葬られた世界の話が記されているという。その書物に興味をもったオカルト雑誌の編集者である主人公がふとしたことからその世界に足を踏み入れてしまい。。。。という背景で描かれている伝奇もの。5つの短編(エピソード)からなるのだけれど、どれもいつもの軽快な(?)ギャグは足を潜めて、おどろおどろしい世界が展開される。でも想像していた「読んだだけでウエッとなる感じ」は大丈夫だった。それでも描かれている様子(赤子大の蝶の中身とか、ひゃくめさま、とか)はするっと読んでしまわないと、じっくり想像なんかした日には気持ち悪くてウエッとなってしまうので、なるべく考えないようにして読まないと、やっぱり気色悪かった。

どちらかというとそういった映像的気色悪さよりもこの本は心理的じわじわ気色悪さのほうが濃いような気がする。夜中に読んでいて、ふとまわりのしずけさにじっとりとした重みを感じるような、あの感じ。何もないのに何かいるような感じ。純日本的妖怪的気持ち悪さ、それが見事に描かれてるなーと思う。面白くて一気読みしてしまった。

しかし田中さんの物語はいろいろ蘊蓄がわんさかで楽しい。よくここにこんなことひっぱってきたなーとか感心しまくってしまう。あまりにも細かいというか深いので、どこからどこまでが本当でどっから先が作り物なのか区別できない。調べてもいいのだけれど、そのまま鵜呑みにしたほうが面白いのでなんでも「へー」と思って読んでいくのだけれど、いやしかしよく集めたなーと思う。

個人的には「妄執の獣」が好き。気色悪かったのは「天使蝶」。

次何読んだらいいだろう。「ミズチ」は読んだけど、ずっと前に。

角川ホラー文庫 2008

田中啓文 – 茶坊主漫遊記


田中さんのまた歴史物っぽい本。この間読んだのは忠臣蔵だったから今度はなにかなーと思ってたら、謎の僧侶二人づれ、それにもう一人おどけた人物が加わった3人の珍道中、、、というと弥次喜多とかそれこそ水戸黄門みたいだけれど、そんな感じではなくて、”もしかして実はこんな史実だったら・・・”という、そういう意味では忠臣蔵のやつに近いのかも。今回もキャラがたった人たちばかりで楽しい。

それにしてもばらばらには知ってるけれど、(どうも歴史と言うのが勉強の対象としては面白いと思えなかったのでぜんぜん知らないだけだけれど)関ヶ原とか天草の乱とか、柳生十兵衛とか宮本武蔵とかが同時代ということは全然しらなかった。これらをうまーくひとつにまとめて話が進むので面白い。で、その結局のところの怪しげな僧侶がだれだったのか、というのは伏せておくけれど、いまの感覚ではわからないけれど、当時なんてちゃんと顔を会わしたことがない人同士が戦ったりしていたわけで、いざ捕まえてから本人かどうかなんて実はわからなかったことが多かったんじゃないかと思う(このあたりは忠臣蔵も同じネタつかってましたが)。息子や娘もはやくに養子や嫁にだしてしまったり、だれがだれのどの子でーとかなんかわかんなくなったりもするだろうし、ましてや顔を知ってて本人だとなんかわかりようもない、ってことが数多あったのではないかと。

そんなある意味のんびりしていた時代の感じを味わわせてくれたりもするし、ちょっと頓知の利いた謎解きもあって(これがおおい)すっと読める作品だった。隠居しないでまたどっかに旅にでてほしいなぁ、治部さま。

集英社文庫 2012

田中啓文 – チュウは忠臣蔵のチュウ


田中さんの時代小説(?)。ある人から「あれはオモロいぞ」と薦められて読んだ。忠臣蔵自体ぼやっとしかしらないので、あとがきで書かれているようにぼくらが何となく認識してる忠臣蔵(浅野内匠頭の吉良上野介に対する刃傷事件ー>浅野内匠頭の切腹ー>浅野家家臣 赤穂藩の大石内蔵助による討ち入り&吉良成敗)というのは骨子はそのままでも史実とは実はだいぶ違っていて、それはどうやら江戸〜明治時代に流行った講釈(講談)の影響がおおきいそう。赤穂義士たちの各々の物語なんてきっとあとから付け足されたものだし、討ち入りに関しても実際どうだったのかは実はわからないそう。それほど歴史的記録が残っていない。でもあの時代にあの事件はものすごく話題なったはずで、歌舞伎になり、講談になりで、物語はすごく広がったんだそう。

で、このお話、その史実が実際どうだったかというところを逆手にとって(?)あらたな展開を持ち込んでいるのがおもしろい。上述のような背景があることを知らずに読み出したので「また田中さんめちゃくちゃな話作り出したな」とほくそ笑んだのだけれど、これがウソだったかどうかなんて誰も分からない訳で(笑)。なんせ内匠頭は切腹を免れているし、さらに吉良は討ち取られてないし(これ以上かいたらネタばれになるな)、その陰にはあんな人やらこんな人が暗躍して、、、いやいや立派な時代活劇です。

田中さんの本にしては(?)わりとふつーの創作っぽい感じで、めちゃくちゃな無理矢理感も、脳天につきささってくるようなギャグもないのだけれど、逆に普通に楽しく読めた。いつぞや読んだ宮部さんの赤穂浪士ものといい、この辺りの話っておもしろいなぁ。

文藝春秋 2011

田中啓文 – ハナシがうごく!(笑酔亭梅寿謎解噺4)


そして3につづき4も一気読み。だってやめられないんだもん。この巻も短編が8つ。どれも古典落語が題材で、目次見ているだけでも全部普通に落語できいてみたくなる(もちろん月亭八天さんの解説あってのことなのだけれど)。

襲名騒ぎや師匠梅寿の危篤などのどたばたがようやく一段落した梅寿一門であったが、大手プロダクションを抜けた彼らには仕事もなく、落語ブームもどこ吹く風。バイトしたり闇営業したり。そんな竜二にはやはりまだまだ波乱が。たまたま立ち寄ったなじみのライブハウスでインディーズ社長に気に入られて落語のCDを出そうと持ちかけられたり、甘い営業だと思って飛びついたら死にそうになったり、落語がまた嫌になって漫才に手をだしたり、、、そんな彼も3年目になっていよいよ内弟子から独り立ち。でも仕事はない。さてどうなるのか?

”謎解噺”というシリーズ名なので落語にかけたミステリーものという感じもあったけれど、いまはあまり謎解きものはなく、竜二の成長とどたばた、数々の難問どかどか、という感じ。でもちゃんと落語がネタになっているし、ますます噺家の世界に引きずり込まれるようで楽しい。個人的には最初の「二人癖」と「仔猫」が好きだなぁ。つづき出るのかなあ。竜二もっと頑張ってほしいなぁ。

集英社文庫 2011

田中啓文 – ハナシがはずむ!(笑酔亭梅寿謎解噺3)


自分のブログを読み返してみたら4年前に読んで以来のこのシリーズ。続きがあるのはもちろん知っていたのだけれど、なかなか出会わずで読みそびれていた。前のお話がどんなだったかはすっかり忘れてしまっていたけれど、読み始めるとだんだん思い出したのもあるけれど、とにかく面白くて一気読み。こんな面白かったっけ?!

ロックとバイクが大好きでめちゃくちゃだったがひょんなことから上方落語の大師匠である笑酔亭梅寿に弟子入りした梅駆こと竜二。彼が師匠や兄弟子たちにひどい扱いを受け、「もうこんなん嫌や」「落語なんか何がおもろいねん」とかいいながらも、少しずつ落語のよさ、いろんな面を知って行く。それでもたまにはめちゃくちゃしてしまうのだが、それでも破門にはならない。どうやら陰で師匠は彼に才能があると思っているようで‥‥

短編が8話。どれも古典落語が題材(モチープ)となっており、その解説を最初に月亭八天さんが軽く(しかもうまく)書いてくれているのもあるし、お話の中でもあらすじや背景なんかを説明してくれるので、面白い物語だけれど落語のいろはを知ることもできてとても楽しい。また竜二がめちゃくちゃだけれども憎めず、彼と一緒に落語というもの、噺家というものの世界を見聞きしていき、どんどんはまっていくのが楽しいのだな。

今回はテレビの時代劇がでてきたり、地方のどさ回り、さらには襲名の話まであってバラエティに富んでいて読んでて全く飽きない。ほんとこれ読んでると落語家さんたちに会いたくなるし、何よりも落語聞いてみたい。まともに聞いたことない。テレビとかでもやってるけれど、音楽と同じ、生でなければやっぱり伝わらないし、見続けられないのよね。あーいきたい。

集英社文庫 2010

田中啓文 – ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺2


前作があまりにおもしろかったので、連続して一気に読んでしまった。

一話完結的な要素は薄まり、前の話がつぎの展開へとつながっていくようになり、竜二こと笑酔亭梅駆の成長記的などたばた劇となっていく。これまた楽しい展開。落語とミステリーという枠組みでなくて、梅寿や梅駆、そして江戸落語の担い手たち、魅力的なキャラクターがたくさんでてくる物語に変化しているあたりが見事。飽きさせずに読ませる。

江戸と上方の比較がしばしば出てくるのだが、これが、なるほどへーっというものばかりで面白い。落語文化をしらないからそう思うのかもしれないけど、お互い認め合うものもあり、確執もあり、ってところが音楽業界と同じかも。もしかして田中氏は両方を掛け合わせて(氏は両方詳しいから)無意識に描いたのかも。たしかに関西にいると東京はそう見えるし、逆もまた然り。これを肯定的に見るか否定的に見るかで先がかわってくるよなぁ。

本書には8編含まれているが、どんどん話が広がっているからか、ひとつの話がふくらんで結構きつきつになってるかも。もっと頁さいてもいいような気がするなー。お話がもったいないかも。

粋、江戸なら「いき」、上方なら「すい」、うーーーーん、なるほど。

集英社文庫 2008