雫井脩介 – 虚貌

少し前に「火の粉」という本を読んでとてもおもしろかった(でも怖かった)のでまた手に取ってみた雫井さん。今回も長編。なかなかややこしい事件でぐいぐい引き込まれる。

同僚のトラックの運転手に引き込まれ、やりたくもなかった犯罪に巻き込まれる主人公。頭の切れる仲間の手にひっかかり主犯に仕立て上げられて、一番重い刑に服することになる。その服役中に同じ犯罪に加担した仲間は出所し社会にまぎれてしまった。ところが主人公が出所後、この仲間達がつぎつぎと惨殺されていく。犯人は誰か?

映画のようにクライマックスぎりぎりまで犯人が違う人物であるかのように、または皆目分からないようにいろいろ伏線を張ってあって読んでいて飽きない、おもしろい。そして心に傷をもったが故に歪んでしまった人たちの末路。解決はするけれどさっぱりはしなく、ドロドロしたものが心の隅に残るのは「火の粉」と似たような感じ。でも現実世界ってこんなものかもしれない。勧善懲悪、きれいさっぱり気持ちよく解決する物事などそうないのかも。

幻冬舎文庫 2003

雫井脩介 – 火の粉

初めての雫井さん。最初は分厚さに戸惑ったけれど読み始めると進む進む、あっという間に読み終えてしまった。

ある一家殺害事件で生残った武内。彼は状況から殺人犯と起訴されるが、逆転無罪となる。それからしばらく後のある日、その裁判の裁判官であった梶間と武内が偶然出会い、そしてまた偶然にも武内が梶間の隣に引っ越してくる。彼は裁判官であった梶間とその家族に恩を返すとばかりにいろいろ善意を向けてくるが、その一方すこしずつ梶間の家族が瓦解して行く・・・・・。

スピード感があってとってもいい。最初は冤罪を全面的にとりあげた作品なのかなと思ったけれど、それは問題提起としてあったとしても主は事件に関わった人物たちと裁判官家族の人間模様。どうして加害者だった冤罪になりかけた人間が元裁判官の隣に引っ越してきたのか?それは偶然なのか?以前の事件の真相はどうであったのか?主に梶間の妻・尋恵、そして息子嫁・雪見の2人の視点で描かれる物語はやがて武内の人物像に迫っていく。またそこで崩壊していく家族の描写が真に迫っていて怖い。

普段の生活ではほとんど目に触れない法曹界の内面や、人間としての裁判官という職業、冤罪などについて考えさせられる。世の中にどうして冤罪が生まれるのか。この物語の場合はさらにそれは冤罪だったのか?というところまで切り込んでいく。

本当に何が真実か最後までわからない。狂気だ。

幻冬舎文庫 2004