少し前に「火の粉」という本を読んでとてもおもしろかった(でも怖かった)のでまた手に取ってみた雫井さん。今回も長編。なかなかややこしい事件でぐいぐい引き込まれる。
同僚のトラックの運転手に引き込まれ、やりたくもなかった犯罪に巻き込まれる主人公。頭の切れる仲間の手にひっかかり主犯に仕立て上げられて、一番重い刑に服することになる。その服役中に同じ犯罪に加担した仲間は出所し社会にまぎれてしまった。ところが主人公が出所後、この仲間達がつぎつぎと惨殺されていく。犯人は誰か?
映画のようにクライマックスぎりぎりまで犯人が違う人物であるかのように、または皆目分からないようにいろいろ伏線を張ってあって読んでいて飽きない、おもしろい。そして心に傷をもったが故に歪んでしまった人たちの末路。解決はするけれどさっぱりはしなく、ドロドロしたものが心の隅に残るのは「火の粉」と似たような感じ。でも現実世界ってこんなものかもしれない。勧善懲悪、きれいさっぱり気持ちよく解決する物事などそうないのかも。
幻冬舎文庫 2003