中山可穂 – 猫背の王子

以前彼女の「天使の骨」という作品を読んですっごく引き込まれて別の作品も読みたいなあと思っていたら手にやってきた「猫背の王子」。中山さんのデビュー作。「天使の骨」の前のおはなし。芝居に人生のすべてを賭ける、主演男優(でも女性である)で演出家の王子ミチル。レズで女たらしでどうしようもない彼女の突き抜けた生き方、まっすぐであるがゆえに傷ついてばかりの彼女の姿に吸い込まれてしまう。

ちょうど「天使の骨」を読んだころちょっと芝居にも出てたこともあって、あの劇団特有の雰囲気とかクローズドな世界とかが少しわかることもあって、作品にのめりこんだのだけど、この「猫背の王子」ももっと強烈にそのときの想いや匂いを思い出させるものだった。そして主人公王子ミチルの姿。実際字を追っているだけでもその強烈な個性と若い女性を虜にしてしまうのであろうカリスマ性、スキャンダラスな存在感、それらを目の当たりにしてしまう。

何よりもこのミチルの生き方そのものに憧れを抱かずにはいられない。普通の人間(ちょっとした芸術家でさえ)からはまったくかけ離れた生き方。きっと苦しいことばかり、めちゃくちゃ。でもその尖った感じ、狂おしいまでに求める姿、そこに自分にはきっとできない/到達できないある意味理想の芸術家の姿を垣間見てしまう。すこし映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」でのBjork(ビョーク)演じたセルマ(だったか)の頑固さ狂気さを思い出してしまった(彼女は普通の主婦の役だったが)。

そしてエロティック。女性が描くもののほうがより鮮烈におもう。男性とは違うことがきっと見えて感じるから。電車で読んでたら結構恥ずかしくなってしまうぐらい。でもこれもミチルの魅力を増させるひとつになっている。

とにかくまだ荒削りだけどその分めちゃくちゃストレートに突き刺さってくるこの物語、面白い以前に恐ろしく、でも読まずにはいられない感じだ。

集英社文庫 2000

中山可穂 – 天使の骨

初めて読む中山さん。古本屋さんでなんとなく手にとった一冊。タイトルがなんとなく気に入って。

一応このお話の前のお話が別の作品として あるので、つづきということになるのだけれど、この作品単体でも読めるようにとつくってあるそう。自分が主宰していた劇団を失い、作家である事もやめ、人 生そのものにも希望をなくしてしまったミチル。彼女の心が生きる欲からはなれていくに従って、彼女には他の人には見えない羽が傷ついた天使たちが見えるよ うになる・・・さらに彼らは増えていくのだ。

世界を放浪し、さまざまな人に出会い、別れ、傷つき、優しさにふれ、そんななかで少しずつ変化してく彼女のこころ、そして明かされていく過去の出来事たち。彼女のなかでそれらのピースがうまくはまって行くに従い、天使たちは姿を消していく。

ミチルのせつなさが突き刺さってくるかのようなスピードのある文章と、展開がはやいけれど十分に描かれている彼女の日々がどんどん流れ込んでくる。彼女がどうなってしまうのか心配で一気に読んでしまった。決してオーバーでなく、彼女の後姿を追っているような気分になる。

世間に、世界に翻弄されて、自分が希求していたものを見失ってしまう。それを運命というのかもしれないけれど、その翻弄のなかにあるちいさな希望を掬うことができたら、またあらたに天に舞い上がれるのかもしれない。

天使の骨
天使の骨