吉村昭 – 仮釈放


あるお店Jに閉店間際にいったときに「好きなのもっていきー」といわれてもって帰ってきた本のうちの一冊。なんとなくタイトルだけでもらったのだが、なかなかいい作品だった。

教師という社会的立場もあった人間だったが不貞から妻を殺してしまった主人公。自身が為したその行為におののき模範的な服役生活を送っていたが、やがてその態度を認められ仮釈放されることになった。16年後の社会に戻った彼は戸惑いながらもその社会生活になじもうと努力する。そして一定の社会復帰はできたはずだった。しかし彼は16年前の行為を悔いていなかったことに気づき戸惑う。それに気づいたとき彼は自身のその感覚から逃れることはできるのか?

獄中生活、そして仮釈放の手続きや主人公の心理的な変化、仮釈放後の社会への恐れの描写など、普通想像しても描きにくいことがすごく細かく描かれているので、よく取材した作品なのかなと思う。獄中ものや釈放された人間を扱った作品も数多くあるんだろうけれど、こういう視点はなかなかないのでじゃないかな。すごく興味深く読めた。と、同時に主人公の心のありどころがよくわかり、恐ろしくもあった。犯罪を繰り返してしまう人間。それは悲劇。

1991 新潮文庫