垣根涼介 – ワイルド・ソウル

戦前からつづいていた日本からの各国への移民制度。1950年代の終わり頃、政府によるいいとこどりの宣伝のおかげで、海外にて一旗揚げてやろうと考え、 すべてを投げ打って夢の新天地を求めたものの、目の前に現れたのは耕作すらまともにできない、そこからはどこにも行けないような、アマゾン奥地の荒れ地 だった・・・・・

”ブラジル移民”というものがあって、いまでもその2世3世がいて・・・ということは知っているものの、移民政策自体 がどういうものであったかは全く知らなかった。もちろん苦労して成功した人もいただろう。でも政府の宣伝と現実のあまりの違いに騙されたと思い、苦労の甲 斐なく倒れていったひともまた数多くいたに違いない。それらは巧妙に隠され、遠い土地であったことをいいことに、関係者たちは目をつぶり、口を閉ざしてい た。

この物語はフィクションだけれど、かなり事実に基づいて描かれているらしい。先人たちがどれほどの苦労をしたのか、そして志半ばで どんな思いで倒れていったのか、その地を逃げ出せたとしても、そこからどういう人生を歩んだのか。文字を追う目がふるえてしまいそう。想像すらできない。

物語はそこから生き延びたひとたちが当時の外務省担当者や関係者たちに復讐を、しかも自分たちの苦しみがわかるような、そんな方法を編 み出し実行するサスペンスだが、そんな面も物語として面白いけれど、それよりもその関係者たちが当時の事実に対してどう思っていたのか、どんな態度をとっ ていたのかということも描かれていて、それがこの物語中の外務省という特定の場所だけでもなく、現在でも累々と積み上げられていっている国の機関の失態、 不祥事、不正、矛盾、そんなものが見えているのは実は氷山の一角なだけで、苦しくても声をあげられずにいるひとたちがたくさんいるのではないか、と思わせ られてしまう。国は誰に向かって政治をしているのか?

上下巻併せて900ページほどあるが、あまりにも面白くて一気に読んでしまった。 伊勢に記念物としておいてあったブラジル丸、これも移民船だが、こんな歴史があったと知っていたら、子供心にも違って映ったかも。知らないという事は罪な のか。奇しくも世間はブラジル移民から100年だそう。ぜひ読んでほしい。

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