川上未映子 – すべて真夜中の恋人たち

あるネットの記事で作家としても活躍し始めている又吉さんが紹介した本というものの一覧にあって手に取った本。初めて読む川上未映子さん。芥川賞作家でもある川上さんの文章に初めて触れたけれど、すごく文節がながいのにちっとも読みにくくない。箇所によっては(登場人物の心理を矢継ぎ早に説明するために)非常にながい文節の時がある(しかも句読点だらけ)けれど、それすらぜんぜん嫌じゃない、というかうまい表現だなーと思ったり。

あまり自己主張することもなく流されるままにフリーの校閲の仕事をしている主人公の女性・入江冬子。人とうまく会話をかわせないし、誰もいない部屋で黙々と文字と格闘するだけの日々を過ごす彼女の楽しみはクリスマス前の誕生日の真夜中に散歩をすることだった。真夜中の光はとても綺麗。すべてが別のもののように見えるから。

そんな彼女の前にあらわれた三束さん。なんでもない会話を続けるうちに、冬子にもわからない感情が積もっていく。でもそれをうまく表現できない。表現しようとすると何かが詰まってしまう。空気の振動として口に出す前にどこかへ消えていく感情。。。。

全体に悲しいような気もするけれど、そういうわけでもない。彼女がもどかしいのはもどかしいけれど、でもそれも嫌な感じもしない。小さなさざ波がやがて大きな波になるように、彼女の小さな変化や感情が、毎日の積み上げが、知らず知らずに大きなものになっていっくようすがとても細やかに、繊細に、でも大胆に描かれていて、ドキドキしたりする。きっと女性が読んだ方がもっとよくわかるのかもしれないけれど。

すごくすごくながい助走につきあったような気分。いいペースで読めると、じん、と沁みそうな作品。また別の川上さんの作品を読もう。

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