朱川湊人 – かたみ歌

katamiuta

はじめて読む朱川さん。本屋さんの棚で表紙の絵のなんともいえないレトロというか懐かしい感じに魅せられて手に取った。

昭和40年代半ばの東京の、都心からそう遠くない下町にある、アカシア商店街という古びた商店街ととその周りの街で起こる、少し不思議な話たち。古本屋、レコード屋、スナックなどが立ち並び、ザ・タイガースなどが流れる、昔はもう少し賑わった商店街。その商店街の横にある覚智寺というお寺はあの世とつながっているという噂があるという。

新しく街に引っ越してきた夫婦、漫画家になる夢をみて上京してきた若者、ジュリーに憧れる女の子、兄が失踪した小さな弟、、、いろんな人がいるそんな街で不思議なことが起こる。柱の陰に物言いたげな男の陰が見える男、死んだはずの旦那が帰ってきたと喜ぶ女、見知らぬ人と文通する女の子、人の死が色となって見えるようになった男、、、この世のものではないものとどこかでつながってしまった人たちの、少し怖くも、でもなぜか心が締め付けられそうになる切ないお話が7編。こういう懐かしい感じがする話には無条件に反応してしまうが、それだけでなくて、会えなくなった人、なくなったものなど、誰もが歳を経ると感じずに入れない寂しさや郷愁がさらりとはいってて、読んでいてほっこりしたり、切なくなったり。

猫が好きだからってのもあるけど、「ひかり猫」という話が好きかな。そして「枯れ葉の天使」も。一話一話は別の話だけれど、狂言回しのようにどの話にもでてくる気難しそうな古本屋の店主の姿が全編を通して少しずつ明かされていくのがまたいい。

短い作品だけれど、すごくよかった。朱川さんの他の作品も読んでみたい。

2008 新潮文庫

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