聴く鏡Ⅱ – 菅原正二

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以前読んだ「聴く鏡」の続編。岩手の一関にあるジャズ喫茶ベイシーのマスター菅原さんの著作。季刊ステレオサウンドに連載されている記事をまとめたもので、Ⅱは2006年から2014年にかけて書かれたもの。つまり東北の震災をまたいでいる。

この本も、ベイシーのあの丸テーブルで菅原さんが喋っているような気分になってくる。レコードをかけながら、メガネを上げ下げしながら。前作同様日々のお店の音やオーディオ機器との格闘や、音楽仲間、ミュージシャンとの楽しい話などたくさんだけれど、JBLの社長がやってくる話や、逆にアメリカに招かれる話がとても楽しい。そしてそれらの中で描かれる社長も技術者もみんなが、音楽を聞いて感動しているエピソードがとても熱くなる。いいオーディオをつくる人たちがいいリスナーであるのはとても楽しくうれしい事。どの文章からも音楽が好きでたまらないという気持ちがあふれていて読んでいて胸が熱くなる。だからまた早くあのお店へ帰りたい。

そして地震があってお店がぐしゃぐしゃになった話、そして落ち着くと音楽を聞きたいと人が集まってきた話、やがて東北のジャズ喫茶があつまってコンサートをする話などなど読んでいると、7年前のあの頃のことや、ずーっと走った三陸の海岸の無残な姿が蘇ってくる。それでもそこからみんな立ち上がって、またあんなすごい音を聞かせてくれて本当にうれしい。感謝しています。

実は先月ベイシーに訪れて、菅原さんには挨拶もせず片隅でずーーーーーーっと音楽に浸った。あの大音量(でもちっともうるさくない)を全身に浴びていると、耳だけでなく、体がジャズそのものに作りかえられていくような気分さえした。音楽的にどーのこーのというのもあるけれど、何を聞いても最初に感じるのは、かっこいいだろう、という吹き込んだジャズメンやエンジニアや、それらに息吹を吹き込む菅原さんのニヤリとした顔。いつか何日も通いつめたり、本のエビソードにあるように、夜中までわいわい騒いだりしてみたいな。

と、この記事を書いている今日、2018年6月18日の朝に大阪北部を震源とする地震があった。もうすっかり忘れかけていた23年前の震災のことを揺れたその瞬間に思い出して、とても怖い思いをした。最近地震がやたらと多いけれど、心のどこかで遠くのことと思い込んでいたよう。でもいつ足元で起こってもおかしくないんだということを改めて思い直す。悔いなく生きていきたいし、今日出せる精一杯の音を出していきたい。

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菅原正二 – 聴く鏡

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岩手は一関にある喫茶ベイシー。ジャズファンやオーディオファンなら知らない人はいないくらいの老舗。そこのマスターである菅原さんが長年季刊ステレオサウンド誌に連載しているコラムをまとめたもの。この本は1994年から2006年の分と、いくつかのコラム、そしてSESSIONS LIVE!と題して渡辺貞夫、村松友視、坂田明との対談3本を収めた作品(その続きのIIもある)。

何も知らずに読んだらただのオーディオオタクのかなり頑固なヒト、的な感じしかしなかったかもしれないけれど、実はベイシーには2度だけいったことがあり(幸いにも一度は懇意にされている方と一緒にいったので、幸運なことにいきなり’あの’テーブルに就ていろいろお話伺えたのでした)、あのお店の音の凄さ(体験しないとわからない)、菅原さんのあの感じを少し見知っているので、本を読んでいると、まるで菅原さんが目の前でいろいろしゃべっているように感じられた。あのお店にいって、あの音を聴いて、あそこでの時間を愉しんでいたら、この本に書かれていることは、まるで映像をみるかのようにいろいろ想像できるんじゃないかなと思う。

オーディオでレコードを鳴らすこと、(自分が信じる)いい音を出し続けるということ、ジャズという音楽とそれを産み出した人々を愛すること、そんな日々が(割と?)赤裸々に ー 場合によっては愚痴に見えるぐらい ー 語られる。菅原さんのあの声が聞こえてきそう。なぜここまでこだわるのか、もっとスマートにできるものをややこしくしてみたり。坂田さんとの対談でも書かれていたけど、これらは修行であって、あがきつづけることが大事で、それによって各々がしかるべきところに収まる時が来る(と信じる)、そうでないと何も面白くない(簡単に答えがわかることはつまらない)。全くもってその通りだと思うけれど、今の風潮はそうではないのかもしれない。

ああ、またあのくたびれかけたソファーにどっかと座って、あの音を浴びたい。まさに浴びるという感じ。レコードをただしく再生してやると、録音された時の空気がそのまま蘇る、と菅原さんがいうことがよくわかる。単に聴いているだけでは聞こえない、録音された音のマイクの向こうにそのときいた人たちの息遣い、衣擦れの音、体の大きさ、立っている様や座っている様、表情までが見えてくるよう。

チャンスがあれば訪れて欲しいお店だし、行ったらこの本を読んでほしい。

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