最後の進水式

先日9日、以前働いていた職場の進水式にいってきました。会社の門をくぐるのは実に11年ぶりでした。久しぶりに訪れる会社付近は変わっているところもありましたが、ほとんどは以前のままの姿で懐かしさが込み上げてきました。もう働いていた年月より退職してからの年月のほうが長くなっているのに、結構細かいところまで憶えているものなのですね。

進水式
進水式

これまでにも進水式のお誘いは数多くあったのですが、今回訪れたのはこれが最後の進水式となるからでした。明治の時代から100年以上にもわたって船を造り続けてきたこの場所で船を造る(商用船ですが)のが最後というのは、なんとも表現しがたい気持ちにさせるものです。一つの時代、希望と夢にあふれた時代が終わるんだな、と思いました。

広大な工場の敷地、建屋たち、見慣れた作業服のひとたち、懐かしい職場の省略名(ヘルメットとかに書いてある)などなど、船台に近づいていくにつれ懐かしいものがたくさん目に入って来ました。船台の下には事務所や作業員さんたちの休憩所、倉庫なんかが並んでいて、そのどれもが長い年月を経て古びてきているけれど、その役目はいまだしっかり果たしているし、丁寧に使われているのがわかるし、ここでたくさんの人々が働いていた、悲喜こもごもがあったんだろうなと想像できるものでした。

船台の下
船台の下
船台って広い!
船台って広い!海の上にあるのは進水した船

あいにくの雨模様でしたが、たくさんの見学者たち、社員や関連会社のひとたちが見守る中、1296番船となる(造船当初から数えているそう。が、同じ番号の船が造られたこともあり、いままで1600隻あまりが造られた)自動車運搬船エメラルド・エース号が進水しました。何度見てもこのすべり式の進水式は見応えがあります。今回の船は少し小振りでしたが(といっても全長200mある)轟音とともに海へとすべりおちていく様子は圧巻でした。くす玉が割れたり、紙テープや風船が風に舞ったりするのも綺麗です。

いよいよ進水というときには船を止めていた支えが外されたり、船上でさまざまな作業したりするのですが、これらの仕事もこれで最後なのか、と作業をする方々が無言で語っているようにも見え、すこし寂しい気持ちになりました。特に船のような大型構造物はひとつのものを造るのに数年かかります。それだけに一隻一隻がどれも愛おしいものだろうし、それらを造る仕事自体が終わってしまうというのは、どんな気分がするのか想像を絶してしまいます。ぼくたちが生まれる遥か前から使われていたものがもう使われなくなるということ、この場所から人がいなくなること、時代の流れとはいえとても寂しいことです。

やっぱりモノ作りはいいなぁと思います。とくにこんな大きなものを造るというのは。こういう仕事はすごく魅力的だし、もっと注目されていいのになぁとつくづく思います。モノを作るという仕事や現場がもっと尊敬されてもいいのになぁとも思います。

JR和田岬駅
すっかり様変わりしたJR和田岬駅