作家・壇一雄氏の妻、ヨソ子夫人の視点から描いた壇一雄氏の生涯。沢木さんの作品らしく、夫人の一人称で徹底的に作者の感情を排した形で書かれている。ドキュメントでもなく、ルポタージュでもなく、小説でもなく。でも、読み手がヨソ子夫人本人またはすぐ横で話を聞いてる人になってしまえるぐらいの、自然でかつ深いその物語がぐんぐんせまってくる。一雄氏をしらなくても、名作といわれる「火宅の人」を読んでなくても、それに関係なく楽しめる作品。さすが沢木さん。
物語の内容はその「火宅の人」の裏側というか、実際の生活・人生としての一雄氏の姿を追っていくのだけれど、内容はおいておいて、一雄氏が他界する少し前からの描写(無論夫人が語った内容、口調で)が、ちょっと今のぼくには結構迫ってくるものがあって、読みながら、目を伏せそうだった。悲しいのじゃなくて、今までそんなことはまったく意識せずに生きてきたけれど、自分もそういう立場になる日もそう遠くないのかな?と最近実感するようなことが多いためなのだ。だからそういうシーン、実際にあったことこまかなことが生々しいというか、淡々としているけれど、スゴイ彩り・リアリティある、まるで映像が見えるかのような、そんなシーンは読んでつらかった。ちょっと震えそう。怖い。自分の畏れを外から突きつけられたようで、絶句してしまう。
ま、それはおいておいて(上のは物語上はほんの一部のことだから)、その生涯を追ったあとに、ヨリ子夫人がいろいろ振り返って思う、夫婦の形や愛、そういうものに思いを馳せる章は、時代や背景、作家という特別な人物、そういった要素を取り除いてみても、今の時代の人間にいろいろ諭し、考えさせてくれ内容だと思う。