いろんなものを擬人化して主人公にして描いた小説は数あれど、財布が主人公の小説ってのもなかなかないんじゃないかなぁ。10章(とエピローグ)からなる小説でそれぞれ主人公(事件に関係する人物がもつ財布)が入れ替わり、関連すると思われる4つの殺人事件に臨んでいく。その描き方も見事だけれど、事件のまとめかた、謎の明らかになっていく過程も見事。
決してややこしくなることもなく、すいすいと読めるのに、複雑に入り組んでいて、でも読みにくくなく、と、お話としても小説の構成としてもすばらしい。主人公が財布ということで、人間のように見聞きするわけもできず、持ち主の行動に伴って何かが明らかになったりしていくやりかたが面白い。また財布にも持ち主によって性格があったりして、これまたおもしろい。
いやー、見事。
光文社文庫 1999