昭和58年の刊行だそう。物語の時代背景が戦後からなので話自体は古く感じるけれど、文章とか書き方はまったく古さを感じない、というか斬新。
この物語で語られる「悪女」こと富小路公子(鈴木君子)はいきなり謎の死を遂げているところからはじまるのもさることながら、物語は27章にも分けて書かれていて、その章ごとに公子と関わりがあった人間一人一人にインタビューをするという形式になっていて、27人の登場人物のキャラが見事に描き分けられているし、読み進むにしたがって、登場人物間の相関関係、関わり方による主人公の見え方、そこから見える主人公の人となり、立ち振る舞い、などなど、長い文章なのにちっとも飽きないし、ミステリーというとちょっと違うけれど、ずっとワクワク感が続くし、実際そんな人物がいたかと錯覚してしまうほど。
なぜ公子が死んでしまったのか、その答えは描かれないのだけれど、ヒントはいくつか。いろんな人が公子のことをいろいろ言うけれど、本人の口から何も語られないので、どれが本当なのかはわからない。でも得てして一人の人間というのは(またとくにここで描かれているような成功を収めた人間)その人に関わった人間の数だけ側面があるものであり、それを極端に表現してみたのかも。
見事としか言いようない。
新潮文庫 1983
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