「かくし味」「夜明け前の道」「夕立」「福の神」「不発弾」「幽霊」からなる6編の短編集。
今回はどんなお話読ませてくれるのかなーと期待して本を開いたら、最初の「かくし味」からいきなり面白いなぁと思う展開。常連ばかりが集う古い居酒屋の看板料理の煮込み。何年食べても飽きない。なにかの隠し味があるはず。しかしお店の老夫婦は神様仏様のおかげ、という。そして年月が経つにつれ常連が一人一人と亡くなっていく・・・。ラスト、うまいなぁ。
その後も、不気味なのに気持ち温まる「夜明け前の道」、実際に世間のどこかで起こっていそうな「夕立」と不気味な、でもリアルにいそうな人間たちのドラマがつづく。
中でも一番いいなと思ったのは次の「福の神」。途中までいったい誰が福の神になるんだろう?なんて思いながら読みすすんだけれど、こんな意外な(でもないか)展開、というかストレートだけれどうまくちょっとだけ捻った、心温まる展開にほろり。いい話ー。こういう感じはじめてかも。
表題の「不発弾」、気持ちよーく分かる。世間にはこんな不発弾がひしめいているんじゃないか?あまりにも忍びない。けれど逆の立場から見たら、また違う気持ちになるのかも。そして最後の「幽霊」。あー、スカッとする!
どの話も人間模様が中心に描かれている。でもこんなに見事にばらばらなお話の感じがするのもすごいなぁ。しかしどろどろしたこわいものも、心温まるものも、なにか共通したものが通っているように思う。そこが単にリアルぽい、ちょっと怖い話、という部分で終わってない理由かも。言葉すくなに的確に人物を表現しつつも、人間の弱さ、ダメさ、怖さ、そんなものを少し許容しているような、そんな部分か。
講談社文庫 2002