有川浩 – 阪急電車


今年2011年映画になることでも話題になってる本だそう。阪急電車、関西の人にはなじみの深い、あのえんじ色の車両の、ちょっと”ええとこ”なイメージのある電車。神戸に通うようになったころ、沿線の桜並木を眺めながら揺られたころが懐かしくて、こそばゆい。

で、このお話ではその阪急電車のいくつかある路線の中ではちょっとマイナー?な今津線を話題に物語が描かれる。その今津線はマイナーといえど、関西では”ええとこ”のひとつ宝塚を起点として、終点は西宮北口という少し大きな駅になっている。人の行き来もたくさんだけれど、すこしのんびりした雰囲気を残す、いい路線。こんなのを持ち出してくるあたりが素敵。有川さんはこの沿線に住んでいらしたとか。そんな今津線はたった8駅しかないのだが、路線の各駅をひとつのお話にして往復で16のお話で構成されている。行き帰りになってるあたりがちょっとニクイ。

ひとつひとつのお話はすごく短いのですいすい読めるし、エピソードもちっさなものなので、最初は「?」と思って読み始めたのだけれど、そう、電車は乗りあうもの、袖触れ合うも・・・じゃないけれど、1つのお話でちらっと出てきた別の人間が次のお話の主人公となり、その人もまた次のお話の主人公とすこしすれ違い・・・と、まさに電車という移動する閉ざされた空間だからこそ起こるほんの少しの人との繋がり、そんなものたちが、思わずふふふと微笑んでしまうような柔らかなタッチで書き綴られている。いいなぁ。

また、各駅に拡がる町の描写なんかが「ああいってみたいな」と思えるようなもので、近くに住んでいるけれど、わざわざ体験しにいってしまいたくなる。なにか明るい日差しを感じるよう。

そして復路へと話が進むにつれ、読者の視点は電車に揺られるがごとく時を重ね、いつの間にか往路からは月日が経過して、最初に出てきた人物たちのその後がほほえましいエピソードとなってまた描かれる。いやー、ニクイ構成。素敵。今津線に乗りに行きたくなった。

有川さんのほかの本も読みたいな。

幻冬舎文庫 2010

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