乃南さんの文章もやっぱり素敵。読み出した瞬間に周りの景色は消え、すっと静かに音が消えてしまい、景色が立体的に迫ってくる。きっぱりと独立した世界。それらを多くない描写で確実に描き出す。そしてその温度感。けだるさの中にも冴え冴えとした空気。
乃南さんらしい意外な展開と人間がちょっと怖くなる結末をもった10の短編からなる本。どの短編も面白い。こんな風に書けるということは乃南さんはよく人間を観察しているか、異常に想像力のたくましい人なんだろうな。
しかし短編集といえども「薬缶」「寝言」という軽くジャブ的な短編からはじまって、「向日葵」「愛情弁当」「今夜も笑ってる」と少しずつ怖く、ズブズブと泥沼にはまるように抜け出せなくなって、「他人の背広」「留守番電話」と本当にありそうに怖い話が続き、ちょっと趣向の変わった「脱出」、本書一番の長編「最後の花束」(見事な構成!)、そして表題作「花盗人」と、全体でちゃんと集としての構成もできているから、単なる寄せ集めではなく、読み進むごとに世界が拡がっていく短編群のよう。見事。最後までおもしろかった。
茶木さんの解説も見事。
新潮文庫 1997