何度も書いてしまうけれど、やっぱり江國さんが好きだ。よぶんなことを書き加えない文体、ひらがなとカタカナと漢字の選び方、その配分ぐあい。この人の文章を読んでいると、文章の字が文字としてではなく、なにかうつくしいかたちとなって目に飛び込んでくる。
とるにたらないものもの。普段の生活で普通に接するものだけれど、とくにとりあげるほどではないけれど、江國さんにはどうしてもひつようで欠かせないもの、いとしいもの、忘れられないものがエッセイで綴られる。「緑色の信号」「トライアングル」「ケーキ」「スプリンクラー」などなど。たしかにとるにたらないものたちだけれど、彼女の筆で語られるとそれらが生き生きたりやたらと美しく感じられたり、かわいいものに思えてくるから不思議。
ひとつのものについてはたった2、3頁でしか語られないのだけれど、行間で語られることがおおいので、一気に読めない。ちょっとずつ味わって読まないと、薄味の砂糖菓子のようにそのイメージは儚く消え去ってしまう。でもそうやってゆっくり読んでいると、まるで目の前で話してくれているような錯覚を覚える。少しずつ何か秘密を明かしてくれているような気分になる。
またこの本だけでなく江國さんのエッセイにはよく旦那さんやら昔の恋人やらが出てくるのだけれど、江國さんが独立しつつも少し甘えている感じがほのかに感じられて、ものすごくかわいらしく、または大人の女として感じられてなんともいえない気持ちになる。清潔で、ひそやかで、健康的にみだらで。決しておもしろおかしく書いたり、やたらとデレデレしたり、バカにしたりしない。そういうところがたまらない魅力のひとつになっていると思う。
ふと折に触れて読みたくなる本。大切な宝石箱をたまに覗きたくなるような気分に似ているかも。
集英社文庫 2006