有川浩 – 空の中

有川さんの自衛隊3部作と呼ばれる作品の1作目。ずいぶん前にこのシリーズの「塩の街」を読んで、そのアイデアというか、本人曰く「自衛隊ラブコメ」という新ジャンル(笑)に非常に興味を覚えて一気に読んでとても面白かったのだけれど、それからずいぶん経ってから、やっと手に取った。

タイトルから想像できるように、今回は航空自衛隊のお話。あるときようやくたどり着いた”純国産ジェット機”の試験飛行中に期待が爆発。そしてそれを調査していた自衛隊機も謎の爆発・・・・。純国産ジェット機の命運は?(これ想像上のお話じゃなくて、結構リアルに今後どうなるのか気になる、というかなんとかなってほしい話題)事故の原因は?と真相究明に乗り出す大手重工メーカーの下っ端設計社員と、男勝りなのにずいぶんかわいい(らしい)女性パイロット – ああ、この時点でもうメロメロ(笑)。

同時並行して、高知の海で謎の生物?を拾う少年。その少年を見守る同級生の少女。このクラゲのような、そして乾かしてみたら円盤のような謎の生物が物語の鍵を握る・・・

で、ネタばれになっていくけれど、この事故の原因が人類創生よりずっと以前からこの星にいた(あった?)すごく巨大な円盤型の生物(といっていいのかわからないような、カテゴライズ不可能なUMA)なのだけれど、物語が社員とパイロットそして少年少女の恋や葛藤などのドラマがメカメカしい物語の合間にさわやかに流れていく中で、なぜかこの不思議な生物にえらく興味が湧いてしまって、読み進むにつれて気付いたらこの謎の生物に感情移入してしまっていたという(笑)普通主人公たちの誰かになりそうなのに、どうしてかなぁ(笑)。物語上でさえなかなか表現困難な未知の生物の描写や設定やそのコンタクトの仕方の工夫なんかを読んでいるうちに実際こんなものがいたらどうなるのかなぁなんてぼんやり考えていたら、夢中になっていた、というような。

有川さんも書いていたけれど、出版や編集者とのすり合わせの中で一応少年少女向けという趣向で物語は少年少女が主人公になるように描かれているけれど、いやいや大人のあまりにもツンデレな恋もなかなか面白く、そこだけ抜き出したら本当にただのラブコメ。でもこれに自衛隊というメカメカしいものや、細かな専門的な描写が割り込んでくるもんだから、このギャップ感がたまならく、「塩の街」やら「クジラの彼」で感じたあのわくわくぞわぞわした感じをまた体感できてとても楽しい。

文庫版には後日談として「仁淀の神様」という短編が描かれている。その後の主人公たちがどうなっていったかを知ることができて、なんか後味がいい。自然、繋がっていく命、のびのびした空気。そんなものがやはりありがたい。SFの世界でも自然は自然なのだ。

角川文庫 2008

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