初めて読む前川さん。少年犯罪や家族問題、少年たちの心の闇を描いた作品。ずしりと重い感じがするが、そこをスピード感ある筆でうまく読ませると思う。もともとは「明日を抱きしめて」というタイトルで出版され、松本幸四郎や高島礼子出演でテレビドラマになったそうだけれど見てない。ストーリーは描けたとしてもこの内容の暗い部分、えぐい部分ってあんまり描写しにくかったんじゃないかな?
少年犯罪を主に担当する若き女性弁護士 真希が担当するのは16歳の少年。彼は母子を暴行し殺害した。彼の心の中にはなにがあるのか?その闇に近づこうとするが自分の力のなさに悩む。一方彼女は夫の前妻の少年と同居するようになり・・・複雑な家庭環境と年の差のある夫婦がもつ脆い環境・・・。彼女はどうなっていくのか?
切通さんの解説によると、この作品が発表された2000年ごろには少年法の改正があったころで、ちょうど97年の酒鬼薔薇聖斗事件があった流れて少年犯罪が表面化してきたころだった。いまでも犯罪の低年齢化、残虐化が進んでいるといわれているけれど、実際のところどうなのか?たんに明るみにでるようになっただけで数が増えているわけではないのだろうか。でも明るみになる事件はどれも恐ろしい。彼らがなにを考えているのか、考えていることを口にされても、それが実感として理解することができず、ただたんに怖さだけが増していっているように思う。
世の中、どうなっていくのか、人間不信の増す世にならないでほしい。
光文社文庫 2006