大学は卒業したものの就職浪人して毎日パチンコでぶらぶらする男・白戸の前に、ある日老人が現れてパートナーにならないかという。やくざ者ともかかわりを持っているような雰囲気のある老人だったが、その元を訪れてみると、老人はディーラーだった。老人から株のディールについて教わる白戸。はじめは何も分からなかったのだが、そのうち数字が踊り、その波が見え感じられるようになっていく・・・
僕はいわゆる金で金を生むような行為は好きじゃない。やっぱり労働の対価としてあってほしいものだし、金が金を生んでいる場所にはリアルはものは存在しない、全部データだけ。そういう世界はありだけれど、自分はリアルに感じられるものを触っていたいと思う。そんなだけれど、まったく知らない世界の話、そしてきっと簡単ではないけれど、一部の才能と勇気がある人間になら乗りこなせる世界がいくつかあって、そのひとつはこの株の世界なんだろうと思う。
何も知らなかった白戸がどんどん株の勘を会得し、老人の目的を知るようになっていくに従ってストーリーもスピードアップしていき話にどっぷりはまってしまった。単なる金儲けの話じゃなくて、バブル崩壊後の日本経済の悪化とそのときの国策や銀行や保険会社の行動、世界経済について社会的な指摘も交えながらの話の構成は見事。結局銀行や保険屋の食い物にされたのは子供のためになどなど小さな幸福を望んだ高齢者ばかりだった。犯罪かそうではないのか?事実にそっているだけにすごくリアルさがあって面白かった。そして単純なハッピーもしくはアンハッピーエンドではなく、ちょっとした仕掛けもあっていい感じ。さすが石田さん。そしてこんな世界の話なのにどこか青春小説ぽいところがまたいい。
文集文庫 2003