そういえば江國さんの読み始めは当時話題になった「冷静と情熱の間」だった。その著作もこの「左岸」と同じく辻さんとの共作(同じ物語を違う主人公の視点から描く)だった。
主人公茉莉の幼少時代から大人(中年?)までを描いた物語。物静かな父と派手な母、思慮深い兄をもつ茉莉は子供の頃からひとりでうたって踊るのが好きだった。そんな子供時代に一番頼りにし、世界への扉だった兄の突然の自殺により、周りが一気に変化してしまう。やがて母がいなくなり、自分自身も産まれ育った博多を離れて東京へ駆け落ち。そこからも土地を男を変遷し、やがて結婚/出産したり、出会った一人の画家に誘われフランスに言ったりと、自由奔放に生きていくが、その時々に顔を出すのが、幼少のころ兄と一緒にいた隣に住む九ちゃんだった。。。。
ひとつひとつのエピソードはすごく身近な感じなのに、こうやってまとめて読まされるとなんとおおきな物語なのだろう。そしてどれもこれもが偶然に積み重なっていっているはずなのに、ずいぶん年月が経ってからわかる死んだ兄の陰。何か大きなものでループさせられている感覚。
派手な主人公なのに、文章からは騒々しさはまったく伝わってこなくて、カーテンから漏れる淡い日光や、遠くに聞こえる喧噪、花の美しさ、物静かなことば、などなど、やっぱり江國さんは江國さんで素敵。でもその奥底に流れる大きな、でも決して暴れ出てくることのない、そんな力(運命?)みたいなものがすぐ横にある感じがすこし怖くて、でもいい感じ。
まるで茉莉の一生を一気に体験したような気がした。素敵だけれどちょっと寂しくて、それでいてごく普通、なのかもしれない。辻さんの「右岸」も読んでみよう。