「落下する緑」などの音楽ものとか、笑酔亭梅寿謎解噺のシリーズとか「蹴りたい田中」や「銀河帝国の弘法も筆の誤り」のような作品には触れてきたけれど、いままで田中さんの気色悪い系は避けていた。だって気色悪そうだから。昔からスプラッタ系の映画とかも不得意なので、もう文章読むだけでおえっとなったらどうしようとか思ってこのあたりの作品は読んでいなかったのだけれど、魔がさしたのかふと手にした本。
「禍記(マガツフミ)」といわれる謎の古史古伝には闇に葬られた世界の話が記されているという。その書物に興味をもったオカルト雑誌の編集者である主人公がふとしたことからその世界に足を踏み入れてしまい。。。。という背景で描かれている伝奇もの。5つの短編(エピソード)からなるのだけれど、どれもいつもの軽快な(?)ギャグは足を潜めて、おどろおどろしい世界が展開される。でも想像していた「読んだだけでウエッとなる感じ」は大丈夫だった。それでも描かれている様子(赤子大の蝶の中身とか、ひゃくめさま、とか)はするっと読んでしまわないと、じっくり想像なんかした日には気持ち悪くてウエッとなってしまうので、なるべく考えないようにして読まないと、やっぱり気色悪かった。
どちらかというとそういった映像的気色悪さよりもこの本は心理的じわじわ気色悪さのほうが濃いような気がする。夜中に読んでいて、ふとまわりのしずけさにじっとりとした重みを感じるような、あの感じ。何もないのに何かいるような感じ。純日本的妖怪的気持ち悪さ、それが見事に描かれてるなーと思う。面白くて一気読みしてしまった。
しかし田中さんの物語はいろいろ蘊蓄がわんさかで楽しい。よくここにこんなことひっぱってきたなーとか感心しまくってしまう。あまりにも細かいというか深いので、どこからどこまでが本当でどっから先が作り物なのか区別できない。調べてもいいのだけれど、そのまま鵜呑みにしたほうが面白いのでなんでも「へー」と思って読んでいくのだけれど、いやしかしよく集めたなーと思う。
個人的には「妄執の獣」が好き。気色悪かったのは「天使蝶」。
次何読んだらいいだろう。「ミズチ」は読んだけど、ずっと前に。
角川ホラー文庫 2008