新田次郎 – 山が見ていた

初めて読む新田さん。某ジャズ喫茶のママから「荷物整理するのに欲しかったらもってって」と言われたので数冊貰い受けたもののひとつ。「新田次郎おもしろいよ」と言われて半信半疑で読み出したのだが、おもしろくて一気読み。いまぼくが好んで読んでいる作家達にくらべたら一時代前の作家さんだけれど、文体や表現される時代に古さを感じるけれど、物語は全然古さを感じない。

短編が15。なのでどれもそんな長くないのに、描写力というのか、余分なものがいっさいそぎ落とされていて、物語が始まったとたんその情景にすぐに没入できる(景色がイメージできる)のがすごいなと思った。あいまいさや(ぼくが好むような)ふわっとしたイメージをあたえてくれるようなものはないけれど、逆にあんまりにもがちがちに描いてるわけでもないのに、確固たるイメージが形作られていく。物語で描かれる時代、たぶん昭和30年代後半とか40年代前半ぐらいの感じなんだけれど(実際そんな時代のことは知らない)、それがイメージさせることができるってすごいなあと。

表題「山が見ていた」はある事件を起こして自殺願望をもった男が、死ぬために山にはいるのだが、ひょんなことから人を助けて結局街にもどってきてしまい、、、という物語。完結だけど山の厳しさがよく沁みる作品。その他にも村の龍神様がまつられる沼を守ろうとする「沼」、頑固一徹な保険販売員の運命「死亡勧誘員」、七年前に万引き犯に間違われた恨みをはらそうとする「七年前の顔」などなど、どれも秀逸な、そしてアクがつよく、ちょっとぞっとする作品が目白押し。新田さんのミステリー、知らなくて損したなぁ。

文集文庫 1983

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