またまた有川さん。この作品もまた面白いタイトル。”フリーター”と”家を買う”っていう言葉、ある意味(リアルな世界においては)真逆なものに感じられる昨今、いったいどんな物語なのかなーとベージをめくると、今まで読んだ有川さんと全然違うトーンの物語が始まる。
折角就職した会社をたった3ヶ月で「自分にあわない社風だ」と思ってやめてしまい、フリーターをしている息子。そんな中、実は彼の知らないうちに長い年月ストレスをためていた母親が鬱になってしまう。自分がかわいくて自分のため以外には何もしようとしない父と衝突する病院に嫁いだ姉。殺伐とする家庭内。とにかくいざという時のために金を貯めねばと肉体労働のバイトに精を出しはじめた主人公にひょんなことから再就職のチャンスがやってくる。
後半はどんどん展開が明るくなっていくあたり、やっぱり有川さんらしいなとおもったけれど、前半の胸が痛くなるような感じははじめて。甘さのかけらもない物語の展開は読んでいて苦しくなってしまった。決して誰もがこんな状況には陥らないとは思うけれど、でも、誰しもがこの可能性がないとはいえないし、特に息子の立場である自分のことを考えてみても、こういうことや似たようなことになる可能性はなきにしもあらずなので、すごく怖かった。
そして後半は生活を安定させたり、地位を得る、という以上に、働くってのはとてもいいことよね、と思わせてくれる内容だった。何かを成し遂げることも楽しいけど、人とのつながりとか、そこで生まれてくる物事とか、そういうことに触れたり、出会ったりできるのは非常に楽しいことだと思う。
主人公の悩みや逃避、気づきや成長を通して、じぶんを眺めてみて(比較する?)一体自分はどうなんだろうと考えたり。自身のためには何かできているかもしれないけれど、少なくなってしまった家族やその周りの人、仲間たち、というような人間関係に与えたもの、そして生み出してきているはずのもの、そんなものがちゃんとあるのかな、と。毎日を消費してしまって(いるように感じる)このところに何か一石を投じられた気がする。停滞して悩んでいるばかりではだめよね。
重松清氏の解説もまたいい。
幻冬舎文庫 2012