一瞬小川さん自身のエッセイか?と思ってしまうような、連作短編小説。
息子と愛犬アポロと暮らす主人公の私。私の周りでは不思議なことがいろいろ起こる。伯母がびっくりするくらい”きちん”と失踪してみせたり、お手伝いさんをしているキリコさんが実になくしものを取り戻す名人であったり、作家である私の熱烈なファンであるへんな男につきまとわれたり、病気になった愛犬をふと助けてくれる獣医が現れたり。
なにかがなくなったり、欠けたりするとなにかが訪れる。それは幸せというもの、なのだろうか。
形あるようで実体のない、でも嫌な感じではなくて、雲のように軽やかだけど、霧のように冷たい空気がまとわりついてくる、そんな感じがする小説。しっかり景色が目に浮かんで、断片的な物語がまぶたに焼き付くのに、読み終わってみると、それらは軽やかにどこかにいってしまい、きれいに忘れ去られ、すこし甘くて苦いような、でもさわやかな感触だけが残ってる。実に不思議。
解説が川上弘美さんてのも面白いな。
角川文庫 2004