相変わらず重松さんの描く文章はやさしい。とくにこの本におさめられている物語は弱きものに優しい。何かでつまずいたり、時代についていけなかったり、正直だけど不器用な人たちが必死に生きる姿を暖かく見守る感じ。
幼い頃近所にいた野球のヒーローと再会する「口笛吹いて」、全く生徒に感心を示さず淡々と授業をする毎日の教師を描く「タンタン」、リストラにあった父親を負け組だと決めつける息子「かたつむり疾走」、臨時代理教師の苦悩「春になれば」、嫁子どもが出て行き途方にくれる男の家に不思議な老人が遊びにやってくる「グッド・ラック」。どの物語も小品だけれど、なにか心をくすぐられる。というのはやっぱり歳を食ったからなんだろうか。ちょうどこの本が書かれたころ重松さんも同じ歳ぐらいだった。
中年の苦悩と諦観と少しの希望・夢。うーん。哀しくもまだ捨てられない。
文春文庫 2004