だいぶ伊坂さん作品も出版された文庫に追いついて来てしまったので、なかなか新しいのに出会えない。ハードカバーを入手すればいいのだけれど、どうも大きいのもって歩けないのでねぇ。この本もずいぶん前に手に入れてたけれど、読むまで(順番があったので)時間が経ってしまった。
「bye bye blackbird」といえばジャズを聴く人間なら一度は聴いたことあるであろう曲のタイトルだ、とすぐに連想してしまう(以前読んだ「ゴールデン スランバー」のタイトル見て、あ、ビートルズだ、と思ったように)。このタイトルがいつどういう形で物語に関わってでてくるのだろう(やはりゴールデンスバンバーもそういうシーンがあった)とか思いながら読み始めたけれど、そんなことさっさと忘れて没頭してしまい、あっという間に一気読み。すごく面白かった。短くはない物語であるのにすごく軽やかに読め、かといって単純な訳ではない。巻末の伊坂さんへのロングインタビューを読むとそれがなぜか分かる。
この本は6章だてとなっているけれど、実はこれらは短編として連作されたものだそうで、しかも「ゆうびん小説」という形(一つお話ができると、それを選ばれた50人の読者に送って読んでもらう、という形。ある日帰って来たらポストに伊坂さんの小説、しかもできたてほやほやの、があったらなんて素敵なんでしょう)であまり締め切りを切らずに書かれたものだそうで、伊坂さん自身も結果としては結構速いペースで書いたけれど、追われずにかけたので一話ごと納得ものになった、といっている。なるほど、だからこんなにぎゅっとした、短編なのに長編のような読後感があるのか。
主人公・星野一彦は自身の不祥事(これもなにかは詳しく語られない)のせいで繭美という粗暴で下品な大女に見張りにつかれ、やがてやってくるという<あるバス>(これについても曖昧にしか語られない、それがいい)に乗せられどこか知らないきっと戻ってこれないであろうところに連れて行かれることになり、嘆願して彼の5人の恋人たち(なんと5股だったわけで)に別れを告げに行く、というストーリーなのだけれど、一話ずつ完結して描かれているのだけれど、連作ということで、同じ話の形を踏襲している、というか同じ台詞から始まる、こういうちょっとしたことが面白い。でも話が重なっていくにつれて、前後にちょろっと関係があったりするのも楽しい。そしてキャラクターが楽しい。星野のよく考えたらむちゃくちゃなのに憎めないキャラもだし、繭美のむちゃくちゃすぎるのに筋が通ってる感じもだし、5人の恋人たちも、なにか普通とちょっと違う感じなのがいい。
お話だからふーんと読めるけれど、これ実際だったらこんな感じにはならずにもっとめちゃくちゃになりそうな感じがするのに、そうならないのは、伊坂さんの誘導か、それともじっさい繭美のような女がいるとそうなってしまうのか。完全にありえない話だけれど、なにかリアリティとむちゃくちゃなのに納得させられる感じもあって、伊坂作品の不思議さ、というか巧さにほとほと感心してしまう。そして始まりも終わりも曖昧な感じなのに、それが一番いい形になっている、この物語全体の構成、素晴らしいなあと思う。で、5話目のほろりとさせるところ、6話目になって微妙に変化する星野と繭美、そのあたりも堪らない。
編集者との間でこの企画が持ち上がったとき太宰治の未完の作「グッド・バイ」の続きを、みたいな話から着想したそうなので、太宰さんも読んでみる、かな?
PS
bye bye blackbird という歌は ”blackbird” が何を指すのかによって解釈が分かれるようだけれど、不幸とか不吉なことを指す暗喩といわれているそうで、それならば、こんなよくない状況に別れをつげて、もといたところに帰るよ、というような歌詞になるそう。もともとは女性視点で書かれた歌詞のようで、一説によると売春宿のようなところにいた女性を描いたものだとも言われる。とすると、この伊坂作品の場合は、逆になってるのかな。わざとかな?w
双葉文庫 2013